私たちの日常生活に、AIがどんどん入り込んでおり、2045年には、ついにAIの性能が人類の知能を上回るといわれています。今こそ、AIの構造を知り、人間の脳の構造への理解を深めるチャンスです。AIに仕事を奪われないために、私たちの脳を120%活用する方法を考えてみましょう。

AIが小説執筆の手助けをする時代

第170回芥川賞を受賞した九段理江さんの著書『東京都同情塔』が世界中で話題になりました。犯罪者を差別しない新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」を造るというストーリーが投げかけた、「あなたは、犯罪者に同情できますか」という問いに対する関心度の高さもさることながら、全体の5%ほどで生成AI(人工知能)の文章を使っていることを九段さんが受賞時の会見で明らかにしたことで、「本の執筆にAIが協力をしたことを認めた」として一気に注目を集めたのです。

AIは日進月歩で進化していますが、いよいよ文芸作品を創る手助けまでするようになったのか、と私自身も驚きました。ただし、その後のインタビューで九段さんが、気になる発言をしています。

作品の中では、主人公が「君は、自分が文盲であると知っている?」と生成AIに質問する場面がありますが、それは、九段さん自身が実際に「Chat GTP」に同じ文面で問いかけて返ってきた実際の答え「いいえ、私はテキストベースの情報処理を行うAIモデルですので、文盲ではありません」という文の転用なのです。

主人公は「差別」という言葉がどのように使われ、人々にどういった苦しみを与えてきたのかを生成AIは理解していなのではないかとの疑念を抱き、「文盲」という言葉に置き換えて問いを投げかけていたのです。

それに対する先の生成AIの回答について九段さんは、「その場、その場の表面的なことを言っているなということは思いますね」という感想を明らかにしました。さらに、生成AIを使った目的として九段さんは、「AIの文章は全部敬語で返ってきたりとか、平均的な回答しかなかったり、そういった違和感と人間の血が通った言葉を対比させることで、言葉の本質を考えるきっかけにしたかったんです」とも述べています。

現時点で予測されるスピードでAIが進化した場合、2045年にAIの性能が人類の知能を上回る「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れるといわれていますが、一つひとつの言葉が使われた背景まで理解する能力を含めて、AIの可能性や限界について考え直すきっかけにもなる良書だと思います。