「パワハラ」と言われるのが怖くて、むやみに注意もできないと、日頃からビクビクしている上司からすれば、部下はちっとも言うことを聞いてくれない……。そんな悩める上司が心を鎮めて、部下をうまく動かすにはどうしたらよいか。脳科学がアプローチします。
優秀な上司であるほど悩みが深い
「部下が自分の言うことをどうしても聞いてくれない」「事前に示していた方針通りに動いてくれない」──。自分の部下に対して、このような悩みを抱えている上司がいらっしゃるのではないでしょうか。
部下だった時代に上司の言うことをよく聞き、その指示に従って成果をあげてきたらからこそ、いまの自分がいる。上司が言うことの1を聞けば、10理解することができる。それが優秀な社員だという環境で育ってきた。それなのに、いまの自分の部下は……。優秀な上司であればあるほど、目の前の部下と過去の自分を比較して、悩みを深めてしまう傾向が強いようです。そして、次第にイラついた気持ちが周囲に伝わり、職場全体の雰囲気が悪くなってしまうのです。
こうした場合においても、まず上司自身が自分の感情をマネジメントすることが大切で、それには「メタ認知」が有効です。前にも触れましたが、「メタ認知」とは、自分自身の認知活動を客観的に捉えるものです。実際にメタ認知を行なってみると、「部下は上司の言うことを聞くべきだ」という「べき論」が、大前提になっていることに気がつくことが多いはずです。
さらに、自分が部下だったころの同僚の中には、上司の言っていることを理解できず、上司からのより具体的な指示を黙って待っていたり、自分勝手な解釈に基づく行動でトラブルを引き起こしたりする人がいたことを、思い出すのではないでしょうか。すべての人間が、他人が言ったことを100%理解できるわけではありません。たとえ自分ができたとしても、他の人も同じだとは限らないのです。
自分が直面している「場面」のことを理解したら、次に、いま置かれている幅広い「状況」について俯瞰してみます。そこには、複数の部下を擁するチームのリーダーの自分がいます。チームには会社から成果目標が与えられています。その目標達成には、チームの部下全員の協力が欠かせません。「なぜ言うことを聞いてくれないのか」と嘆いていても、部下の態度は変わらないでしょう。そうであるのなら、上司である自分がアプローチの仕方を変えていくことが先決ではないか、ということに行き着くはずです。
そのアプローチで役立つのが、コーチングの現場で活用されている「GROWモデル」です。
② R:REALITY/RESOURCE=現状・資源
③ O:OPTIONS=選択肢
④ W:WILL=意志
これらは、4つのステップから成る、何かの行動を起こす際のフレームワークです。
「やってみたい」「おもしろそうだ」という目標を設定したうえで、いま自分が置かれている状況を理解し、そこで活用できる資源には何があるのかを把握します。そこから最適な資源を選択し、目標の達成に向けて自らが積極的に取り組んでいく意志を確認するのです。