「心理的安全性」とは、職場の仲間がお互いに信頼・尊敬し合い、安心して率直に話ができる状態を示します。心理的安全性のある職場は、業績の向上にもつながると見られています。まさに、理想的な職場ですが、実現するのは、簡単なことではなさそうです。ここでは職場の心理的安全性が業績アップにつながるメカニズムを詳しく見ていきます。

「人は見た目が9割」は本当か

『人は見た目が9割』──。以前、かなり話題になった書籍のタイトルです。実際に言葉を口に出す「言語コミュニケーション」で伝えた自分の意思よりも、表情や仕草、声色といった「非言語コミュニケーション」で伝わった気持ちや感情のほうが相手の印象に残る、というのが主旨でした。確かに、私たちは日頃のコミュニケーションの中で、非言語の部分から相手の気持ちを汲み取ろうとしています。でも、それが全体の9割を占めると指摘されると意外性があり、そのため、多くの人が書籍を手に取ったのでしょう。

そうした「非言語コミュニケーションが大切である」という主張の根拠の1つになっているのが、1971年に米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者だったアルバート・メラビアンが発表した「3V法則」です。この3Vは、人と人とが直接顔を合わせた際のコミュニケーションを構成する、「言語(Verbel)」「聴覚(Vocal)」「視覚(Visual)」の3つの情報のことを指しています。

そして3Vの法則は、言語に対して聴覚と視覚のイメージが矛盾している場合、「言語・7%」「聴覚・38%」「視覚・55%」の割合で、受け手側の判断に影響を与えていることを明らかにしました。非言語の聴覚と視覚を合計すると「93%」にもなります。3Vの法則は衝撃を持って世界中の心理学者に受け止められ、いまでは「メラビアンの法則」という別名で知られるようになっています。

しかし、メラビアンが法則を打ち立てるのに行なった実験は、限定された特殊な環境下で進められたものであり、その結果がすべてのコミュニケーションに当てはまるわけではありません。あくまでも「矛盾した3種類の情報の中で、どの情報を優先するか」の割合を示したものであり、言語コミュニケーションよりも非言語コミュニケーションが大切だと主張しているわけではありません。それにもかかわらず、過度に非言語コミュニケーションを気にして、いつも部下が上司の顔色を窺いながら機嫌を忖度し、言いたいことも言えないような職場になると、大きな問題を抱えてしまいます。