『上司は思いつきでものを言う』というベストセラーがありました。朝令暮改、午前中に出した指示で動いていたのに、夕方になってまるで正反対のことを言われる……。ビジネスパーソンなら誰でもそんな経験があるのではないでしょうか。そんな時に生ずる衝動的な怒りをどう鎮めるか。まずは、怒りのメカニズムを理解することです。

怒りのメカニズムを理解する

昨日、Aと指示があって仕事に取りかかったのに、今日になったら急に「Bへ変更だ。よろしく」と上司が言ってきた。いままでやったことが、すべてムダになってしまうではないか。そういえば、同じようなことが、2週間前にもあったっけ。振り回されるこっちの身にもなってほしいよな。上司の顔を思い出すだけで嫌になってくる……。

ビジネスパーソンは誰しも組織の一員であり、上司の指示に従うのが原則です。同じような不満を抱いている職場の仲間と、退勤後の飲み会で上司を批判し合って、不満を解消するしかないのでしょうか。でも、そのときはすっきりするかもしれませんが、置かれた状況は何ら変わりません。酔いがさめた翌朝には、再び不満が頭をもたげてくるでしょう。

そうした時こそ、「ムカっときた気持ち=怒り」のメカニズムを理解したうえで、適切な対応方法を考えるのが賢明です。

怒りは「衝動」を通して表出してきますが、その衝動は「元の気持ち」に「何かの要因」が組み合わさって起こります。これを二次感情と言います。怒りは二次感情なのでその前には元の気持ちがあるものです。

元の気持ちとは、「悲しい」「不安」「苦しい」「怖い」など、自然に出てくる感情のことです。これを一次感情と言います。いずれも本能的なもので、生き抜くために必要なものばかりです。未知なるものを見て恐れをなすからこそ、「君子危うきに近寄らず」で、自ら危険を回避しようとするわけです。

そうした元の気持ち(一次感情)が、何かと触れ合ったときに衝動につながり、一気に怒り(二次感情)が爆発してしまうのですが、具体的な例を想定しながら、そのメカニズムを考えてみましょう。

電車の中で、若者に対してキレて怒鳴り声を上げている老齢の男性がいました。怒鳴り声の内容から察するに、座っていた若者の組んでいた足が、自分の体に触れたことが気にくわなかったようです。第三者の目から見て、そこまで怒るようなことなのか、疑問に思えてなりません。若者は「ワザとではないし、足がぶつかったくらいで、そう一方的にキレないでくださいよ」となだめています。しかし、老人の怒りは収まる気配を一向に見せません。

もしかしたらこの老人は、家族と離れて一人暮らしが長いのかもしれません。そのため、常に疎外感につきまとわれ、元気な若者を見ると老いた自分自身に劣等感に襲われるようになっていたのかもしれません。そして、たまたま若者の足が自分の体に触れたことで、それまで鬱積していた疎外感や劣等感が怒りとして爆発したのかもしれません。その場合、いくらその場で周囲が「そんなにキレないください」となだめても埒が明かないでしょう。老人の元の気持ちである疎外感や劣等感にアプローチしない限り、怒りは鎮まらないのです。