個人事業主か、法人か……。独立開業する人が最初に悩むポイントであり、一般的には「売上1000万円を超えたら法人化がいい」とも言われています。しかし、「売上に関係なく法人化がいい。法人のほうが圧倒的に節税対策に優れる」と語るのは、税理士法人Five Starパートナーズの代表税理士であり、税理士YouTuber「ヒロ税理士」としても活躍中の田淵宏明氏。個人事業主と法人の「節税メリット」について、様々な観点で徹底比較してもらいました。
個人事業と法人、その違いはどこにある?
税務署に「開業届」を提出し、個人で事業を営む人が「個人事業主」です。「開業届」を出さずに仕事を請け負うフリーランスも同じく個人事業主になります。一方、法人登記をし、法律に定められた権利や義務を有する組織が「法人」です。両者の違いを会社運営で必要な観点から見ていきましょう。
節税という観点では、下記のうちの「税金・税率」の項目が重要ですが、節税以外にも法人化によるメリットがあり、デメリットもあることをここで理解しておきましょう。
【税金・税率】
税金に関しては、個人事業では所得税、法人では法人税がメインとなります。それ以外に住民税、事業税などがかかるのは両者とも変わりません。所得税は超過累進課税なので、儲けが出れば出るほど率が上がり、所得税と住民税を合わせて最小約15%から最大約60%になります。一方、法人税率は2段階しかなく、25〜32%と、ほぼ一定の割合です。ただし、赤字でも法人住民税均等割というものがかかってきます。
【融資・信用力】
個人事業は白色申告、青色申告の10万円控除ともに簡易帳簿のため、実態把握の信頼性が低く、立場は弱くなります。法人は、個人事業に比べると融資面での立場は強めです。したがって信用力も個人事業は小さく、法人は大きいため、例えば大手の得意先と仕事をしようと思っても、法人ではないと取り引きできないケースも出てくるでしょう。
【採用】
雇う側が個人事業主では信用度が下がり、応募する人が少なくなるのはやむを得ません。もちろんその法人にもよりますが、個人事業主に比べて法人に安心感があるのはごく一般的な判断です。
【経理】
個人事業はシンプルな簡易帳簿を使うことができます。それに対して法人は複雑であり、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)をしっかり整備しないといけません。そのため、会計ソフトの導入が必要になったり、顧問税理士をつけたりする必要が出てきます。法人の場合は経理コストがかかる点に留意が必要でしょう。
【社会保険】
個人事業の場合、一定の場合を除いて任意加入になりますが、法人は基本的に強制加入となります。かつては法人が社会保険に加入していなくても数年間は大目に見てくれることもあったのですが、現在は法人になると、すぐに社会保険事務所の確認調査が入ります。
【事業承継】
個人事業の場合は、前経営者の財産の移転が必要なため、物件の賃貸借契約、建物・機械装置があるならば、原則すべて新たな経営者に名義を変えなくてはなりません。これは、かなり 大変な手間がかかります。株式会社の場合は株の移転だけで済みますが、株の評価額の検討や、株を贈与で動かすのか、あるいは売却で動かすのかによっては税務上の問題はいろいろと生じます。しかし、事業承継のしやすさという観点では法人のほうがはるかに有利だと言えます。
【節税対策】
ここがとても重要なポイントになりますが、圧倒的に法人が有利です。
その詳細について、次に説明しましょう。