事業の利益がそのまま所得になる個人事業主とは異なり、法人化すれば、あなた自身の給料額、つまり「役員報酬」を決めて、いくら利益が変動しても一定額を毎月受け取ることになります。ところが、役員報酬に関する決まりごとを軽視してしまい、法人設立時に報酬額の設定で失敗する人が多いのです。そんなリスクを回避するためのヒントや、役員報酬、賞与、配当の最適額の決め方について見ていきます。

押さえておきたい役員報酬の基本ルール

会社は、法人税法に基づいて役員報酬を決めなければなりません。まずは、役員報酬の基本と税金のかかり方について、個人事業との対比で理解していきます。

下の図は、個人事業と法人で同じ売上で同じ経費がかかった場合の、給与と税金についてまとめています。例えば、個人事業で売上が1000万円、かかった経費が500万円だった場合、差引利益500万円がそのまま個人の所得になります。所得税が超過累進課税で15〜60%かかるほか、住民税や個人事業税でも一定税率でかかるため、儲けが大きくなるほど税率も上がっていく仕組みです。

しかし、会社を設立して法人になると、会社と社長個人は法律上における別人格となり、会社から社長への給与(役員報酬)が生じます。同時に、会社と社長それぞれに課税されます。そのため、個人事業と同様に、利益をすべて個人の所得にしようとすると、上図の右列のようになります。

法人で売上1000万円だった場合、かかった経費が500万円で、残った粗利の500万円をすべて役員報酬として受け取るイメージです。役員報酬500万円は個人の収入になりますから、所得税、住民税、社会保険料等がかかります。

法人に利益が残っていれば、そこにも法人税、法人住民税、法人事業税がかかってきますが、税率はほぼ一定です。利益が800万円までなら約25%の税率で済みますが、それを超過すると32%に近づいていく税金計算となります。

会社の利益をゼロにするのは極端な設定ですが、役員報酬の設定では、会社の収益がどれくらいになる見込みで、そこから役員報酬の金額によって個人の税金と法人の税金がどうなるのかをシュミレートしていくことが重要なポイントになります。

ただし、役員報酬の大原則は、年間を通じて定期同額であること、不相当に高額でないこと、この2つです。定期同額というのは、一定期間を通じて同じ額でなければいけないということです。利益が出ている月はたくさん取って、赤字の月は減額するようなことはできません。役員報酬を変えられるのは、原則として毎年の決算後の3カ月以内のみです。

また、不相当に高額でないことというのは、同規模・同業種の社長と比べて、あまりに高すぎないということを指します。ただし、ひとり会社や小規模会社の創業社長であれば、全責任を背負って仕事をしていますから、役員報酬が少々高額でも、それが問題になることは滅多にないといえるでしょう。

これ以外にも、「事前確届出定給与」という制度があり、社長であっても賞与を受け取ることができるのですが、手続きは非常に煩雑ですし、設定する意味は薄いと考えます。結局、給与も賞与も「報酬は事前に決めておくもの」なのです。安くしすぎて生活に困ったら、会社から社長に貸し付けをすることは可能ですが、適切な金額を設定することが重要です。

ただし、業績が著しく悪化した場合などは、期中の役員報酬の減額が許容されるケースもありますので、その場合は顧問税理士や税務署に確認するといいでしょう。