記憶力を高めることで人はどんなメリットを得られるでしょうか。ビジネスパーソンなら、資格試験などの必要な勉強に大いに役立ってくれます。ただ、記憶力のメリットはそれだけにとどまりません。記憶競技で世界的に活躍してきた記憶のスペシャリストが、記憶力を高めることで伸ばせる他の能力について解説してくれました。

記憶すること自体が、思考力を高めること

まずお伝えしたいのは、記憶力を高めると「思考力」も高められるということです。これらは同時に高まるもの、あるいは、「記憶すること自体が思考力を高めること」だといえます。どういうことなのか、解説しましょう。

効率的にスムーズに記憶するためには、「精緻化」と呼ばれる情報の加工処理が欠かせません。例えば年号のような数字の羅列は、そのままのかたちでは脳にとって覚えにくいものです。

そこで、語呂合わせといった工夫が有効となります。年号の語呂合わせは、ただの数字の羅列を言葉に変えて意味づけをし、イメージ化する手法。つまり、脳にとって覚えやすく思い出しやすいかたちに情報を加工処理(=精緻化)しているわけです。

そして、情報を加工処理するとは、覚えたい情報という対象に対して思考を深めていることにほかなりません。「この数字はどんな語呂合わせができるだろうか」と考えたり、その語呂合わせからイメージを思い浮かべたりする過程に、思考は不可欠だからです。

ほかに例を挙げるなら、「図解する」ことも精緻化のひとつです。文章の内容を図解するのは、情報のかたちを変えていることですし、そもそも深い思考によってその文章を理解できていなければ、図解することはできません。そのため、精緻化によって記憶すること自体が思考力を高めていることだといえるのです。

もちろんこれは、精緻化という記憶の仕組みを知っていて、それを利用していることを前提とした話です。無意味な数字や文字の羅列をそのまま丸暗記しようとしても、そこには深く思考するというプロセスは存在しません。ですから、そういった記憶をしている場合には、思考力が高まるとはいえないでしょう。

しかし、自分なりに工夫して語呂合わせを考えるなど、精緻化を経て記憶をすることは、思考のトレーニングをしていることとまったくの同義なのです。