不安があるからこそ、細心の注意を払って準備をしたり、しっかりとパフォーマンスを発揮しようとしたりする――。仕事をするうえでは「不安」もいい方向に働くことがあります。しかし、記憶にとって不安は大敵です。不安が記憶力に悪影響を与えるメカニズム、不安を払拭してメンタルを安定させるコツを紹介します。

不安や緊張が「脳のメモ帳」を占拠してしまう

記憶力を左右するのは、記憶術といったテクニックを知っていてそれを使えるかといったことばかりではありません。記憶力をしっかり発揮するには、メンタルを安定させることがとても大切です。

このことについては、そのメカニズムを知らなくとも、想像すればなんとなくわかるはずです。精神的に不安定になっているときに、覚えたいことをきちんと覚えられるでしょうか? そうできる気はしませんよね。

特に記憶力を低下させるものが、「不安」や「緊張」です。それらが「ワーキングメモリ」を占拠してしまうのです。ワーキングメモリとは、頭にインプットされてきた情報をいったん保持して、整理する能力のこと。その役割から、「脳のメモ帳」とも呼ばれます。

わたしたちの脳は、タスクを前にしたとき、新たにインプットされてきた情報のほかに、自分の記憶のなかから「このタスクをこなすために利用できる方法や仕組み」を検索してきて引っ張り出すことができます。そして、使えそうな既存の情報もワーキングメモリに書き出し、それらの情報を参照しながらタスクをこなすのです。

記憶も、ワーキングメモリで進められます。記憶の司令塔と呼ばれる脳の「海馬」という部分は、ワーキングメモリに書き込まれた短期記憶を長期記憶にするかどうかを判断します。そのとき、例えば語呂合わせのように覚えやすく思い出しやすいかたちに加工処理された情報は、長期記憶にするように海馬は判断します。

ところが、このワーキングメモリはいかんせん容量が小さいのです。そのため、不安や緊張が書き込まれてしまうと、他の情報を書き込めなくなります。そうして、記憶を含むタスク処理能力が大幅に低下してしまうのです。