ビジネスパーソンにとっての「ひとつの武器」となる「記憶力」を高めようと思えば、多くの人がいわゆる記憶術を学び実践しようとします。もちろんそれも有効な手段ですが、重要なのはそういったテクニックだけではありません。ふだんの「習慣」が、記憶力を大きく左右するのです。

「運動が記憶にいい」は、世界中の研究者の共通認識

記憶力を含む脳の能力をアップさせる要素は何かということについては、数多くの研究報告がなされています。ただ、それらのなかには、そもそも仮説の立て方が間違っていたり実験の設計が甘かったりなど、エビデンスが弱いものも少なくありません。

しかし、そういったものも含めて、脳のパフォーマンスを上げる要素としてほとんどすべての研究者が認めているものがあります。それこそが、「運動」です。「記憶にとって運動がいい」というのは、世界中の研究者の共通認識なのです。

では、どのような運動が記憶力アップにつながるのでしょうか。ひとつは、「筋トレ」です。筋トレをしている人に対して、「脳まで筋肉でできている」「頭がかたい」というような意味を込めて「脳筋」という言葉で揶揄する人もいますが、事実は真逆なのです。

筋トレをすると、「IGF-1(インスリン様成長因子1)」というホルモンが分泌されます。このIGF-1は、記憶において重要な働きを担う脳の「海馬」という部分に作用する因子のひとつであり、認知機能や学習機能を向上させることが研究により明らかになりつつあります。つまり、筋トレは記憶力アップにつながるといえるのです。

また、瞬発力を使う筋トレとは別に、「持久系の運動」も記憶力を向上させてくれます。ウォーキングやランニングなどの有酸素運動をすると、「BDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)」というタンパク質の一種が分泌されます。このBDNFには海馬の神経細胞を増殖させる作用があるため、持久系の運動もまた記憶力アップにつながります。

高齢者のなかには、認知症予防のために「脳トレ」に励んでいる人もいるかもしれませんが、そういう場合こそ筋トレなどの運動もしたほうがいいのかもしれません。