テキストを眺めてただただ覚えようとする――。時間と労力をかければそれでも記憶できるかもしれませんが、より効率的に記憶するために使えるものはなんでも使いましょう。記憶競技で世界的に活躍してきた記憶のスペシャリストも実際に使っていた、記憶を助けてくれる便利なツールを紹介していきます。

「タイマー」を使って、意志力に頼らず記憶学習に移る

記憶学習に絶対不可欠だとわたしが考えるツールが、「タイマー」です。なぜかといえば、学習における一番の難題が、自分を律してモチベーションをコントロールすることだからです。

学校に通っている子どもたちなら、こういった問題はそれほど大きなものではありません。学校に行ってしまえば必然的に授業を受けることになりますし、「ちゃんとやらなければ、先生や親に叱られてしまう」という気持ちから宿題もきちんとしようとします。

でも、大人の場合は違ってきます。「これから勉強をするぞ」と決めるのも、すべては自分の意志にかかっています。しかし残念ながら、意志力はそのときに置かれている自分の状況や気持ちに大きく左右されるものです。やらなければならないことがあるのに、なかなか取り掛かれなくて先延ばししてしまったという経験はすべての人にあるはずです。

そこで、タイマーの出番です。タイマーによって、自分の意志力に頼ることなく自動的に行動に移せるようにするのです。そうするための鍵は習慣化が握っています。要は、習慣によって脳をしつけるのです。

わたしが記憶競技に参加するときには、ノイズキャンセリング機能がある密閉式のヘッドホンを愛用していました。競技から退いたいまでも、集中して勉強や作業をしたいときにはヘッドホンを使っています。集中したいときにヘッドホンをつけるという行為を長く繰り返してきたことで、「ヘッドホンをつければ集中モードに入る」というようにわたしの脳がしつけられているのです。

ですから、タイマーを使う場面は、まずは記憶学習をはじめる瞬間です。わたしにとってのヘッドホンのように、タイマーを集中モードに入るスイッチにするのです。

例えば、記憶学習をはじめる直前にタイマーを10秒にセットします。そして、10秒経ってタイマーが鳴ったら、何を差し置いてもとにかく学習をはじめるのです。もちろん時間は10秒ではなくても構いませんが、短いほど余計な雑念が入る余地がなくなりますから、スムーズに学習に移ることができます。

最初のうちはある程度の意志力も必要とされるはずですが、習慣にするうちに、「タイマーが鳴る」→「記憶学習をはじめる」という流れで自動的に行動を移すように脳がしつけられていきます。