顔は頭に浮かんでいるのに、相手の名前が出てこない――。そんな経験は、多くの人にあるはずです。もちろんビジネスの場においては、相手に対して礼を失することになるだけでなく、大事なビジネスチャンスを逃してしまうことにもつながります。人の顔や名前のほか、趣味や関心事なども併せて覚える方法を、記憶のスペシャリストが教えてくれました。
「きちんと覚えよう」と思うだけで、覚えられるようになる
人の顔と名前を覚えられない、顔と名前が一致しない原因にはいくつかのパターンが考えられます。ひとつは、そもそも相手に関心を持っていないということ。関心が薄く覚えようとしてない人のことを覚えられるはずもありません。なぜなら、脳の記憶のメカニズムは、興味関心や好奇心が働いたときに活性化するからです。
でも、ビジネスパーソンであれば、「仕事でかかわる人だし相手に対する関心は持っている。でも覚えられないんだ!」と反論したくなった人もいるかもしれません。そういう人は、おそらく記憶に苦手意識を持っていて、「どうせ自分には覚えられない」と思っているのです。
そのように、「どうせ無理だ」というあきらめの気持ちを持っていると、たとえ自分では相手に関心を持っているつもりでも、「きちんと記憶しよう」という意志が働きません。この「きちんと記憶しよう」という意志は、脳の記憶のメカニズムにとって、先に述べた相手に対する興味関心や好奇心と同様にスイッチの働きをします。
ですから、何より重要なのは、「どうせ覚えられない」というあきらめの気持ちを払拭し、「今日は絶対にきちんと覚えるぞ」という意志を持つことです。そうするだけで脳の記憶のメカニズムが働きはじめ、テクニックなど使うまでもなく人の顔と名前を格段によく覚えられるようになります。
加えて、相手と会っているときには、「○○さんって筋肉質な腕をしていますが、何かスポーツをやっているんですか?」とか「○○さん、関西弁のイントネーションがときどき出ていますが、ご出身は関西のほうですか?」といった具合に、積極的に相手の名前を口に出すことが効果的です。それが、「エピソード記憶」になるからです。
エピソード記憶とは、「個人が経験した出来事に関する記憶」のこと。このエピソード記憶には、その出来事そのもののほかに、周囲の環境やそのときの自分の身体的・心理的状態など様々な付随情報を伴って記憶されるという特徴があります。
積極的に名前を呼んで会話をすることで、「○○さんとこんな会話をした」ということがエピソード記憶となり、顔と名前の記憶を強化してくれるのです。