澤円さんは、「ビジネスで顧客の心を開かせるには、顧客のビジネスに強い関心を持ったうえで、その相手が満足するために何ができるかを突き詰めて考えることが重要」だと言います。ふだんの営業や交渉事に活用できる、実践的な話し方のコツとはどのようなものでしょうか。

相手の心を開かせるには「大きな主語」を使わない

ビジネスにおいて顧客の心を開かせるには、相手が属する会社や組織ではなく、その人個人と会っていることを理解し、その人に向けてメッセージを伝えることが重要です。営業であれば、あくまでその相手と会いに行くのであり、会社と会いに行くわけではありません。でも、これを案外忘れがちで、多くのビジネスパーソンが、「御社は?」という「大きな主語」で相手と会話をしてしまいます。

会社や組織などの「大きな主語」を使うと、話がぼんやりしがちになります。「この製品を使えば御社の生産性が上がります」などと言っても、どこか“グリップ感”が弱い伝え方になってしまう。なぜなら、相手にとっては、自分自身に話しかけられている感じが薄く、つい「そうだけどね」「話はわかるけど高いねえ」などと、どこか他人事でネガティブな反応をしがちになるからです。

僕は以前、マイクロソフトでITコンサルタントをしていた頃、営業に行くと必ず担当者に対して、「あなたは何をすれば社内でほめられますか?」という問いかけをしていました。その人が社内でほめられる状態は、巡り巡って、その会社が世間から評価され、業績も上がることにつながるようにデザインされているはずだからです。もし、そうでないなら、その会社は構造的な欠陥を抱えていると見ることができます。

それゆえに、「あなたがほめられることを一緒にやりませんか?」と語りかけて、共に探っていく。「それは会社にとってもいいことであるはず」というロジックです。その人が社内でほめられることを見つけ出し、その実現を手伝うことが、お互いの信頼関係を強くしていくのです。