あらゆる業界で若年層を中心に人材不足が叫ばれるいま、企業の中間管理職にあるリーダーに求められることは多岐にわたります。チームのパフォーマンスアップ、エンゲージメントの向上、成長支援、さらにワークライフバランスなどを実現するためには、かつてのように上からモノをいうだけでは済まされません。そこで、部下の「性格タイプ」を把握することで「1on1マネジメント」の実現を提唱する習慣化コンサルタントの古川武士さんに、具体的な実践方法をレクチャーしてもらいます。

「1on1マネジメント」で、チームのパフォーマンスを劇的に変える

習慣化コンサルタントの古川武士と申します。この連載では、主任や課長、部長、プロジェクトリーダーなど、会社組織の中で部下をマネジメントする立場にある人に向けた「1on1マネジメント」の手法についてお伝えします。

部下との信頼関係を築き、それぞれの部下のパフォーマンスを高める具体的なアプローチを一緒に考え、“部下に求められるリーダー”を目指しませんか?

さて、みなさんは、いま自分のチームについてどんな悩みを持っていますか?

「指示をすると、いちいち反論されて面倒だ」
「新人は少し叱ると落ち込む。やりづらい」
「アドバイスをしても、全然響かない……」

もし、このような「つまづき」を感じているのなら、それは一人ひとりの部下に対する特性の理解をしていくと解決の糸口がつかめます。

例えば、「急なんだけど、この仕事もお願いしていいかな?」と頼んだとき、「いいですよ!」とすぐ快諾する部下と、まず「なぜわたしなのですか?」と牽制をしてくる部下。その違いは、あなたとの信頼関係によるものだけではありません。

シンプルに、「楽観的でノリで仕事を請け負う性格」と「慎重に計画をし、リスクを想定して請け負う性格」という、タイプの違いによる場合だってあります。そうであるなら、前者は「本当に頼んで大丈夫か」を確認する必要がありますし、後者にはもっと明確に説明をする必要があります。

ひとむかし前なら、「とにかくやってくれ!」とポジションパワーを発揮すれば済みましたが、現代ではそうはいきません。残業防止の観点から、仕事をしすぎる部下は仕事量を調整すべきですし、人材不足のいま、「反抗的だ」とか「能力不足」という理由で干していると仕事は進みません。

いま、リーダーに求められるのは、一人ひとり性格も能力も異なる部下に対し、個別に最適なアプローチでパフォーマンスを発揮させる「1on1マネジメント」です。チーム全員のパフォーマンスを漏れなく高め、すべての部下が腐ることなく自己効用感(わたしはできる!という自信)と成長実感を得られる、そんなリーダーを目指していきませんか?

「ボス型マネジメント」では、部下はついてこない

「1on1マネジメント」を説明する前に、みなさんに大前提をお伝えします。それは、「1対多数」で管理しようとする「ボス型マネジメント」では、もう「誰も言うことを聞かない」ということです。

部下の心を捉えられず、マネジメントで失敗している原因の多くが、この「ボス型マネジメント」にあります。

少しむかしを振り返ってみてください。みなさんが学生の頃、「先生」とはどんな存在でしたか? おそらくいま40代以上の人が小学生の頃は、先生に絶対的な権威があったことでしょう。『ドラえもん』に出てくる、のび太くんの先生がそうです。「コラ!」と怒れば生徒は緊張し、「明日までに宿題をやりなさい」と言えば、ほぼ全員が文句なくいうことを聞いてくれます。

この圧倒的な権力は、生徒も親も「先生は偉い人」で「先生の言うことは聞くべき」と信じる、“都合のいい常識”によって支えられていました。

これがボス型マネジメントの典型です。かつての会社組織における「上司」も同じで、上司がポジションパワーによる権力で部下をまとめ、会社や部署の方針に沿って足並みを揃え、組織力を発揮していたのです。

でも、それはもうむかしの話。近年では、学校でも先生と生徒の間に上下関係はあっても、コミュニケーションは対等に近づいています。生徒から先生へのカジュアルな言葉遣いが黙認され、先生も生徒に対して体罰はもちろん、理不尽なことをしてはいけないというのが常識です。生徒に言うことを聞かせたければ、生徒の話に耳を傾け、納得できるよう対話することが求められています。また、家庭でも親子関係はフラット化する傾向にあり、家庭によっては「叱らない教育」を実践していることも珍しくありません。

つまり、上下関係に厳しい体育会系の部活にいたのでもなければ、社会人でも若い世代は「怒られる」という経験が少なく、また、「目上の人間には黙って従う」という前提のもとで育っていません。「自分は社会と対等であり、尊重されるべき」という意識を多かれ少なかれ持っている傾向があります。

ゆえに、自分がかつての上司から受けたボス型マネジメントを下に向けて踏襲すれば、部下にとっては横暴としか映らないでしょう。部下は反発し、思わぬことで離職したり、メンタルを病んでしまったり、「パワハラを受けた」として訴えを起こしたりする原因となってしまいます。

そこまでの害を生まなかったとしても、信頼関係の欠如や対立、モチベーションの低下、成長阻害といったマネジメントの機能不全に陥り、パフォーマンスを高めることができず、あなたの管理能力が問われることになってしまうのです。

「童話マトリックス」で人それぞれのタイプを知ろう

では、「1on1マネジメント」をはじめるために、まず何をするべきか? それは、一人ひとりの部下のことを「よく知ること」です。一人ひとりと対話の機会を設け、あらためて考えていること、性格、価値観や仕事観を知れば、みんなまったく違う人間であることがわかるでしょう。自分の常識や価値観だけで物事を伝えても、響くわけがないことがわかると思います。

「1on1マネジメント」は、個々の部下の「違い」を知ることからはじまります。そこでわたしは、部下の性格や特性の違いをわかりやすく把握できるよう、「童話マトリックス」という以下のタイプ別の分類を使っています。

「童話マトリックス」は、わたしがコンサルタントとして携わった約5万人のビジネスパーソンの育成と、1万人以上の個人コンサルティングの経験をもとに分類した、いわば性格診断のようなものです。

社員のパーソナリティ診断には「SPI」や「ストレングス・ファインダー」などが有名ですが、そこまで精密なデータがあっても、正直、細かすぎて日常のマネジメントで活用するのは困難に感じていたのです。

あなたが人事や人材戦略の担当者であれば、そうした精密なデータを使いこなし、時間をかけて人材の特性を分析できるかもしれません。ですが、事業部門のリーダーにそんな余裕はないと思うのです。

もっとシンプルに、大まかに4タイプで性格を分類し、業務への向き合い方やモチベーションの所在を考えられたら使いやすい。そう思ってまとめたのが、この「童話マトリックス」です。実は、この分類のヒントになったのは「子どもの頃の、夏休みの宿題への取り組み方」です。

みなさんは、どのタイプの子どもでしたか? およそ10年前に着想を得てから、実際に1200人をサンプルに検証してみましたが、この4タイプの違いは、大人になっても仕事に対する取り組み方として影響を与えているのです。

ただし、理性と経験で弱点を補い、長所を伸ばすことで人は成長します。「1on1マネジメント」で目指すのも、そこなのです。リーダーのマネジメントによって、それぞれ異なる弱点をフォローし、課題を克服し、長所を伸ばしていくことでパフォーマンスを高め、成長させることにあるのです。

次回は、この「童話マトリックス」の診断方法と、それぞれのタイプの概要について解説していきます。まず、「自分は何タイプか」を調べることからはじめてみましょう。

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