日本のサービス業は、「サービス」という付加価値を価格転嫁できずにコスト削減に偏った戦略を長らく優先させてきました。企業経営において、「コスト削減」は即、サービスのクオリティ低下に繋がる危険性があると指摘しています。コストリーダーシップ戦略よりも、差別化戦略を優先させることが企業の独自性にとって欠かせない視点となるでしょう。

コスト削減で切り抜けた先に、落とし穴が待っている

現在の日本社会は急激な変化を迎えています。日本は、バブル崩壊後にも個人の資産は残ったし、景気が悪いと言われ続けながらも、何とか経営をしのぐことができました。

2010年にロイヤルホールディングスの社長に就任した私自身が経験したことでもありますが、売上が95%になったときには、みんなで「コスト削減」してやっていこうという対応になりました。また実際に、それで対応ができてしまう。変化が緩やかなときには、その場しのぎが可能なのです。

しかし、これを積み上げることには大きな問題があります。その場しのぎの対応を繰り返すことによって、日本全体が変化するチャンスを逃してきたとも考えられます。大事なことは、今回のコロナ禍によってもたらされた急激な変化に対して、その場しのぎの対応で何とかなると考えてはいけないということでしょう。

もっと率直に言うと、「コスト削減」という従来の策を繰り返せば、現状よりさらに悪くなるということ。われわれのサービス産業には、サービスの提供と、消費の同時性という特徴があります。コストを削減してサービスを提供すれば、その時点ですでにサービスのクオリティは低下している。つまり、コストを下げると同時にクオリティが低下するという負のスパイラルが始まってしまうのです。

コスト削減によってサービスや商品の質が落ちる。これは、変化が緩やかな時代には受容できたことですが、現在のような急激な変化のときには通用しないと考えるべきでしょう。