過去20年、物価の下落と生産活動の縮小が作用して、デフレの状態が長く続いてきました。「新・バブル経済」か否かはさておき、著しいインフレが進む今、これまでのデフレ下では合理的だと思えた戦略を見直し、世界のマーケットで戦える新たなビジネスプランを模索していくことが求められています。
価格競争からの脱却と付加価値の創造で道を拓く
先進各国に比べて低すぎる生産性を向上させ、企業業績の回復と経済成長につなげる。そのために日本企業はどう変わらなければいけないのでしょうか。今後、5年、10年を見据えて伸びる企業の条件を考えていきましょう。
第一に、デフレ下では合理的だった戦略を見直すべきです。価格競争から脱却すること。第9話でも触れましたが、日本メーカーが生産拠点を置いてきたベトナム、カンボジア、バングラデシュなどでは、この10年で賃金が2.5倍になっている。人件費の安い国で安く作ることも、徐々に難しくなっている。こうした環境下で価格競争を継続することは賢明ではない。
付加価値の高いものを作り、適正なプライシングをすること。ひと言で言うと、イノベーションを起こすことです。そのための物的、人的な投資も継続して行っていくことが大事です。
半導体に使用されるシリコンウェーハなどのチップ分割を行う切断装置のメーカーにディスコという企業があります。世界トップシェアを獲得しています。
技術を通じて世界とつながりをもっており、イノベーションも実施している。ニッチ・インダストリーと言われる世界で特異性を発揮し続けています。こうした企業はやはり強い。
また最近では、アジアの企業に買収される日本の中小企業が出てきています。技術力は素晴らしいのに国内の下請けばかりしてきたために価格を抑えられてきた企業が、買収されたことで海外に販路を獲得、マーケットを拡大して利益を上げているのです。
保有している技術には素晴らしいものがあったけれど、マーケットが小さすぎたために技術力を発揮する場が限られていた。こうした中小企業が持っているポテンシャルを活かすには、海外とのビジネスが欠かせない。国内ばかりを見るのではなく、海外に市場を求めることも日本企業の課題の1つです。