永続的に成長する企業やチームをつくるためには、お客様も従業員も「幸せ」と感じる組織を作らなければなりません。しかし、お客様を満足させるには、従業員に長時間労働や低い賃金を強いねばならないこともあるかもしれません。究極の選択、どちらを取るべきでしょうか?(2022年12月5日レター)
焼鳥屋で世の中を明るくする――1985年に開業した当初から、私はスタッフたちを前に企業理念や大きな夢を語っていました。そして現在、日本全国に624店舗を構えるまでになりました。
86年、チェーン展開のために設立した株式会社を私は「イターナルサービス」と名付けました。イターナルとは「永遠の(eternal)」という意味。「永遠に続く会社にしたい」という思いを込めて、このような名前にしました。2009年まで24年間名乗っており、「鳥貴族ホールディングス」と改めた今も思いは一貫して変わっていません。
永続できる会社や組織であるためには、かかわるすべての人が「幸せだ」と感じなければいけません。お客様はもちろん、従業員や投資家なども含め、誰一人として犠牲になることなく絶妙なバランスを保ちながら「幸せ」でなければ、必ずどこかでほころびが生じます。一時的にどれだけ売り上げが好調であろうと、あれよあれよという間に会社は足元をすくわれてしまうのです。ですから、鳥貴族ホールディングスでは「すべてのステークホルダーを幸せにする経営」を実践しています。
「自分のビジネスでお客様を笑顔にしたい」「ともに働く仲間と成長していきたい」と思うのは、商売人の原点ではないでしょうか? しかし、ビジネスを続けるということは、そう甘いことではありません。事業がうまくいかなかったり、新型コロナやウクライナ侵攻のような社会情勢の荒波に揉まれたりすることによって、いつの間にか誰かが犠牲になりそうな場面もあるでしょう。
お客様が求めるものは、リーズナブルな価格とハイクオリティなサービス・商品です。ご要望にお応えするには、なるべくコストは抑えたい。そこで、従業員には低賃金でサービス残業をしてもらうとしましょう。当然、従業員は「不幸」です。働いてくれる人が去っていき、ビジネスは成り立たなくなるでしょう。一方、お客様にも従業員にもいい顔をしようとすると、今度は会社の利益が危うくなる。新規出店や配当が滞れば投資家が幸せになれません。
「三方よし」と言うは易く行うは難し、です。偏りがあっては「三方良し」になりませんが「三方のどこから始めるべきか?」と問われれば、私は「従業員の幸せから始めるべき」だと思っています。どんなに素晴らしい商品を開発しても、従業員がいなければお客様に届けることはできません。
鳥貴族でいえば毎日店舗で鶏肉を切り分けて串打ちをしてくれるパートスタッフや店を切り盛りしてくれるアルバイトスタッフ、社員がいてはじめて、お客様に喜んでいただけるサービスが提供できます。従業員が頑張ってくれるからこそ店の売り上げが上がり、利益が出て、店舗を拡大していけます。それによってより多くのお客様に鳥貴族の焼鳥を食べていただく機会が増え、企業価値が上がることで投資家にも喜んでいただけるのです。
すべての出発点は従業員の頑張りです。ところが、日本企業とりわけ飲食業は顧客満足に偏り過ぎるきらいがあります。事業の出発点が「自分が手掛けた商品やサービスでお客様を幸せにできた」ところにあり、「この商売をもっと広げて、もっと多くのお客様を幸せにしたい」と店舗を拡大するからかもしれません。
自分一人ならどれだけ身を削ってお客様にご奉仕してもいいでしょう。しかし、従業員にも同じことを強いなければお客様を幸せにできないのであれば、それはシステムとして破綻しています。長時間労働と低賃金で疲弊した従業員が、心から「お客様のため」を思って働けるでしょうか。会社の理念に共感し力を尽くしてくれるでしょうか。従業員の力を借りるのであれば、従業員の幸せを第一に考えるべきです。では、どのようにして「すべてのステークホルダーを幸せ」にするか。これからお話していきたいと思います。(つづく)