「組織やチームをつくるうえでいちばん大切なことは何か?」と問われた野村克也さんは、「組織づくりの基本は、人間づくりである」と答えています。組織を構成する個々人の人間的成熟こそ、強い組織に不可欠だと考えていたからです。強敵と互角に戦う強固な組織をつくり上げるために野村さんが意識していたことはどのようなものだったのでしょう。
リーダーの判断ひとつで、部下が伸びるかどうかが決まる
組織づくりにおいて、野村克也が重視していたのは「人間づくり」だったという。監督の役割というと、まずはチームづくりであるが、そのためには組織を構成する一人ひとりをプロの選手として、一人前に育てなければならない。人をつくってはじめてチームづくり、試合づくりに着手できるからだ。
人間づくりとは、簡単にいえば人間形成である。近年では、自由放任主義を唱える監督が増えてきたが、チームであり組織である以上、最低限まわりの人間が不快にならないだけの社会常識やルールを身につけさせる必要がある。だからこそ野村は、長時間にわたるミーティングにおいて、野球の戦術や技術論よりも「人間とは?」「人生とは?」と、哲学的な命題を選手に投げかけ続けたのである。
さらに野村は、選手の身なりにもこだわった。長髪、茶髪、ひげは一切禁止。ニューヨーク・ヤンキースや読売ジャイアンツといった伝統あるチームは、人間的な節度や心構えについてとても厳しく律している。野村はそれにならったのだ。この姿勢を、「前時代的な考えだ」「ひげを剃れば野球が上手になるのか?」と批判することはたやすい。しかし野村は、頑として、自身の考えをあらためることはなかった。
人間形成には、こうした社会人教育以外に、その人物が持っている可能性、本人も気づいていなかった能力、資質を開花させることも含まれている。監督の判断ひとつで、選手の将来は大きく変わる。いわば、選手の「生殺与奪権」を握っているということを、監督は絶対に忘れてはならない。野村は、そう戒めていた。