名将・野村克也さんが「言葉の人」であり、言葉を武器に、選手たちを一流への道に導いたことは有名です。その際に野村さんが重視していたことは、「指導者として、いかに感動を与えられるか?」ということでした。「感動」とは「感じて動くこと」。感動すれば、人は自発的に動きはじめます。野村さんが選手たちに与えた「感動」を、ノンフィクションライターの長谷川晶一さんが紐解きます。

感動は人を変える根源であり、プラスの暗示をもたらす

ヤクルト、阪神、楽天の監督時代、野村がもっとも力を入れていたのがミーティングだった。本人の言葉を借りれば、「身命を賭していたといっても過言ではない」ほど、選手たちを前にしての講話に賭けていたという。なぜなら、ミーティングこそ、選手の信頼を得るための最良の機会だからだ。

特に肝心なのが、毎年2月1日からはじまる春季キャンプでのミーティングである。シーズンオフのあいだ、心身ともに野球から距離を置いていた選手たちは「野球がしたい」という欲求が高まり、素直な気持ちでキャンプに臨んでいる。そんな状態のときに、野球に関する知識はもちろん、自らの哲学や思想を叩き込めば、「監督は野球だけでなく、あらゆることをよく知っている」と驚き、感動する。野村はいう。

「感動は人を変える根源である」
「感動はプラスの暗示をもたらす」

人は、ネガティブなこと、マイナスのことには感動しない。「感動」とは、読んで字のごとく「感じて動くこと」であり、感動すれば、人は自分から動きはじめるのだ。プロ野球の監督に限らず、上司や指導者は「人使い業」である。与えられた人材を育て、使い、動かして結果を出す。この連載でも何度も述べてきたように、野村は「その際に最大の武器となるのは言葉である」と考えている。

だからこそ、時間を気にせずに全員で共同生活を行うキャンプ時のミーティングに全精力を傾けたのである。そして、その効果は着実に、そして確実に選手たちに浸透していくことになる。