「魂を込める」と聞くと、長時間労働することのように思う人もいるかもしれません。ジュネジャCEOは、働く時間の長さは関係ないと断言します。仕事と本気で向き合うということはどういうことか。あなたがマネジメントする部下やチームメイトにも本気で仕事と向き合ってもらうためには、どんなアドバイスを送るべきか。仕事との向き合い方の本質を教えます。(2023年11月6日レター)
私は日本に来てもうすぐ40年になります。インドから微生物の研究をするために大阪大学に留学したときは日本語がまったく話せませんでした。そこから研究員として太陽化学に入社して、途中からマネジメントに。ロート製薬で副社長兼最高健康責任者を務めた後、亀田製菓に移って22年6月からCEOとして経営のかじ取りを任されています。いまでも日本語でうまく表現できないことは多々ありますが、もはやヒンディー語より日本語のほうが上手になっているかもしれません。
好きな日本語はいろいろあります。その一つが「魂」です。もちろんヒンディー語や英語にも魂に該当する言葉はあるのですが、私が「魂を込めましょう」というと、「外国の人が『魂』という言葉を使うんですね」とよく驚かれます。
なぜ魂という言葉をよく使うのか。それは私自身、魂を込めて仕事をしてきた自負があるからです。研究者の卵だった大阪大学の学生時代、私の妻と会った教授は妻に「家庭はうまくいってる?」と尋ねました。というのも、私が研究に没頭し、家になかなか帰らなかったからです。微生物は人間と違って寝てくれません。私もそれにつきあって実験していただけですが、毎晩遅くまでやっていたせいか、教授は私と妻が不仲で家に帰りたくないのではないかと疑ってしまったのです。
寝食を忘れて研究に打ち込む姿勢は、太陽化学に入社してからも変わりませんでした。私はそれが普通だと思っていましたが、なかには定時になると実験を切り上げてさっさと帰ってしまう研究者もいました。その研究者にとって、研究はあくまでお仕事。給料のためにやっているだけなのでしょう。お金のためだけにやっている研究者と、給料に関係なく実験に打ち込む研究者では、最後に出る成果が違います。私はこれまでに論文を200本以上書き、特許を135以上取りましたが、研究に魂を込めていたからだと思います。
誤解してほしくないのは、「魂を込める=長時間働く」ではないということです。たとえば昔は長時間労働があたりまえでしたが、残業代を稼ぐためにダラダラ仕事している人もたくさんいました。そういう人の仕事からは魂を感じることは稀です。
私なりに言い直すと、「魂を込める」とは物事を深掘りすること、そしてそのために全力を注ぐことだと思います。合格点を取れたらよしとするのではなく、さらに良くするのはどうすればいいのかと妥協することなく突き詰めていく。それが魂を込めて仕事をするということではないでしょうか。
私はなぜ研究に打ち込むことができたのか。実を言うと、学生時代にやっていた「微生物」や、太陽化学時代にやっていた「食」については、もともと大好きだったわけではありません。むしろ順番は逆であり、深掘りした結果、研究対象が持つ可能性に気づいて好きになっていきました。
太陽化学時代に最初に研究したのはニワトリの卵です。卵は21日間温めると生命になります。つまり栄養が生命に変わる瞬間があるということ。それってすごいことですが、卵の研究をしていればその瞬間が見られるわけで、卵の持つパワーにどんどん魅せられていきました。その後、お茶の研究をして、カテキンの抽出やテアニンの開発に成功しました。カテキンやテアニンは今でも毎日飲んでいます。開発に成功したら終わりじゃない。やっているうちに本気で惚れたから、今も自分の生活に取り入れているのです。
マネジメントする立場になれば、部下から「今の仕事に本気になれない」と相談を受けることもあるでしょう。そんなときは、「まずは全力でやってみなさい」とアドバイスしてあげるといいと思います。とりあえず全力でやれば、おもしろさが見えてくるはずです。そのプロセスなしに他の仕事にアサインすると、結局その部下はどの仕事でもおもしろさに気づけずに辞めていくでしょう。
もちろん、上司自身が仕事に魂を込めていなければ、部下に「全力で」と言っても説得力がありません。自分はリーダーやマネジャーとして仕事に魂を込めているのか。ぜひ自問自答していただきたいと思います。