オランダ生まれながら、8歳から13歳までを横浜で過ごし、アメリカの大学を出たあと、外資企業の日本法人からキャリアをスタートさせたメイさん。一貫して大切にしてきたのは、仕事への「愛」です。(2021年3月8日レター)
私はこれまで、外資系企業3社、日本企業3社でキャリアを築いてきました。商品開発やブランディング、会社経営などで最も大切にしてきたのは、自分が手掛ける商品やブランドなどに対する「愛」です。いくら資金があっても、愛がなければ、ビジネスで大きな成果を挙げることはできません。このメールマガジンでは、私が最も得意としているブランディングを切り口に、そのことをお話ししましょう。
私はどんな企業においても、何よりも構築したい最も重要な資産は「ブランド」だと考えています。ブランドとは何でしょうか。なぜ、ブランドが大切なのでしょうか。
ブランド力が高いということは、長い期間にわたって商品やブランドを愛し続けてくれるファン、すなわち忠誠心の高い「ロイヤルカスタマー(優良顧客)」が多い証です。その商品を偶然手にした顧客と異なり、ロイヤルカスタマーは、ブランドの最新情報などを自ら検索し、自分のSNSで魅力を拡散してくれます。新商品が出るとわかれば、売り出されて良し悪しがわかる前から予約注文してくれることもあります。
ロイヤルカスタマーは、ほかの一般的な購入者に比べ使用期間が長く、一度の購入金額が高く、購入頻度も多い傾向にあります。ロイヤルカスタマーが多ければ、安定した収益を確保できます。ブランド力を高めることにより、ロイヤルカスタマーを数多く獲得し、他社の類似ブランドに乗り換えられないように維持することが大切です。
私は、ブランドとは「消費者との約束」だと定義しています。何を約束するかは、それぞれ違います。たとえば、私がタカラトミーの社長時代は、安全・安心な玩具を通していつまでも変わらない楽しさを提供することでしたし、新日本プロレスの社長時代は、お客様に日常のストレスや嫌なことを忘れ、試合を思い切り楽しんでいただくことでした。
ブランドとは「消費者との約束」である以上、不変であり、永遠に続くものでなければいけません。多くの企業では、商品に名前を付けることがブランディングだと思われていますが、ブランディングに長けている企業は、コンセプト(概念、考え方)に対して名前を付けます。商品は、時代が変わることで廃れますが、コンセプトは永遠だからです。したがって、ブランドイメージが消費者の期待とズレたり、違ったものになると、消費者との約束を破ることになり、ブランドへの信頼は揺らぎます。
最近は商品の質で大きな差別化をすることは、難しい時代になっています。ですから、私は、企業ブランディングが今後ますます大切になると考えています。この商品をつくっているのはどのような会社なのか。ポリシー(商品のこだわり、品質保証)はあるのか。環境を踏まえた持続可能な取り組みをしているか。社会貢献をしているか。経営者はどのようなことを考えているのか。今は情報社会ですから、検索するとすぐにわかり、それによって企業の印象が変わります。
消費者との約束を守る姿勢を見せるために、経営者が表に出ることも、ブランディングの一つです。例えば、トヨタ自動車の豊田章男社長は、メディアや消費者の前によく出てきて、自らの思いや、姿勢を語ります。私も新日本プロレス社長時代に、プロレス会場でファンの人達の前で初めて挨拶をする機会がありました。その当時、外国人社長が来たことで、一気に新日本プロレスが変わってしまうのではないか、と心配するファンがたくさんいました。そこで、事前に自分のプロフィール動画をつくってもらい、試合会場で流したのです。なぜか私のシャワーシーンから始まる、ちょっとユーモラスな映像なのですが、「安心してください!私も新日本プロレスを愛してますよ!新日本プロレスのために全力で頑張りますよ!」というメッセージを最初にファンに伝えたかったのです。
ブランディングというと、莫大なお金が必要だと思っていませんか。私はこれまで、大きなお金をかけずにブランド力を高めることを実践してきました。ブランディングに最も大切なのは、お金ではありません。次回から、お金をかけないブランディングの要点を、私の経験を含めてお話しします。(つづく)