有名なマーケティング理論のひとつである「イノベーター理論」については、第4話でご紹介しました。消費者を5つのタイプに分類し、新しい商品やサービスが市場に普及する過程を分析したものです。この理論をさらに推し進め、商品が普及する前のキャズム、つまり深い溝の存在を説いたのが「キャズム理論」です。サイゼリヤには、「アロスティチーニ(ラムの串焼き)」をはじめ、このキャズムを越えたいくつもの人気商品があります。
アーリーマジョリティは、「新しいから」だけでは飛びついてくれない
みなさん、「キャズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。キャズムとは「深い溝」という意味。マーケティング理論において、新しい商品やサービスを市場に浸透させる際に発生する、大きな障害のことを指します。
イノベーター理論において新しい商品は、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの順に浸透していくといわれています。これら5つの層の割合は決まっていて、正規分布を描くとされています。
アーリーアダプターまでは初期市場、アーリーマジョリティ以降はメインストリームとされており、初期市場とメインストリームの間にある大きな溝、これがキャズム。アーリーアダプターに浸透した商品が、必ずしもアーリーマジョリティに支持されるとは限らず、むしろアーリーマジョリティに支持されることは簡単ではないという理論が、キャズム理論です。
イノベーターとアーリーアダプターは「新しいもの」に対する関心が高いので、商品をすぐに試してくれます。しかし2つの層を合わせた初期市場の割合は16%程度。
これら2つの層を味方にしただけでは、商品を普及させるまでには至りません。
それに対し、全体の中でアーリーマジョリティが占める割合は34%、レイトマジョリティも同じく34%です。メインストリームであるマジョリティ層が市場を占める割合は大きいですが、これら2つの層は、先の2つの層とは、購買理由という点で、特性が異なります。
彼らは「新しいから」という理由だけでは、商品には飛びついてはくれません。
つまり、アーリーアダプターまでとアーリーマジョリティ以降では、購買理由の傾向が異なるために、両者の間に、深い溝であるキャズムが生じるのです(図7-1)。このキャズムを乗り越えられなければ、商品はヒットしないといわれています。