サカタのタネは、ブロッコリーの種は約75%、スイートコーンの種は約60%と、国内で圧倒的なシェアを持つ会社です。同社は全社の売り上げに占める海外売上高が約6割を占めるグローバル企業でもあります。  

 

大きく成長する植物に共通する特徴があります。それは「根」が強いこと。「根」が強ければ、水分や栄養を土から吸い上げる力も強いので、大きく成長することができる。強風にあおられても倒れない。つまり根が強いということは、生命力があるということです。根は土のなかにあるので、私たちは普段、目にすることができません。しかしどれだけ豊かな根量(こんりょう)を持つかということは、植物にとって非常に重要なことなのです。これは人間にも通じるところがあると見るのが坂田さんです。では、人の「根」を大きく成長させるにはどうしたらいいのでしょうか。その考え方とは。(2023年2月6日レター)

「決定的に運が悪くてはどうしようもないが、運が悪かったときでもそれに耐えて、それに打ち勝つ根性、粘り、すなわち根(こん)が強ければ、相当なところまで行く筈である」

大正のはじめに当社を創業した坂田武雄は、2度の世界大戦や関東大震災を経験し、何度も事業継続の危機を乗り越えてきました。その武雄の言葉を冒頭に紹介しました。

これは植物も同じです。「根」が強ければ、水分や栄養を土から吸い上げる力も強いので、大きく成長することができる。強風にあおられても倒れない。つまり根が強いということは、生命力があるということです。根は土のなかにあるので、私たちは普段、目にすることができません。しかしどれだけ豊かな根量(こんりょう)を持つかということは、植物にとって非常に重要なことなのです。

サカタのタネは、私の祖父である坂田武雄が1913年に創業した会社です。私は大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)勤務を経て、1981年に入社し、オランダの現地法人立ち上げなどを経験したあと、2007年から社長を務めています。われわれが扱っているのは、主に野菜や花など植物の種。種苗の世界では、毎年、新しい品種をつくりだすことが重要なのですが、開発に着手したなかで実際に商品化できるのはたったの1%程度にすぎません。しかも品種開発には、10年、15年という時間がかかります。そのせいか、わが社では植物に限らず、人も長い目で成長を見守るところがあるように思います。

こんなふうに考えてみると、つくづく人間と植物は似ていると思いませんか。ある人物がどんな「根」を持っているかは、見た目だけではわかりません。入社時の面接でも、なかなか見抜けない。そこで私が人を見るときの基準としているのが、当社のグループのスローガンである「PASSION in Seed」です。PASSIONの文字には、それぞれ次のような意味をこめました。

P:people(人々)

A:ambition(野心)

S:sincerity(誠意)

S:smile(笑顔)

I:innovation(革新)

O:optimism(プラス思考)

N:never give up(不屈の精神)

どれもわが社が大事にしているものですが、「人を育てる」ときには、最後の「N」、すなわちnever give upがキーワードになるように思います。

PASSIONのある人物は、それこそ「相当なところまで行く筈」です。特に最後の「never give up」が重要になるでしょう。

そして植物も人間も、「環境」に左右されるところが共通しています。どんなに質のよい種や苗であっても、土壌がよくなければ大きく育ちません。植物にとっていちばんいいのは、川沿いのさらさらした土。古代文明が発祥したのは、どれも大きな川のほとりでした。川の流れがさまざまなものを運んでくるので、肥沃な土地になるからです。人間に置き換えてみれば、さまざまな経験や多種多様な人たちの触れあいが、その人を成長させるということでしょう。

また、どんな手入れをするかによっても、植物の育ち具合は大きく左右されます。これは人間に置き換えれば、日々いかに自分を鍛えるかということになるでしょう。さらに、会社でいえば、人が大きく育つための環境を整えるのは、「社員教育」や「研修」ということになります。これもわが社が力を入れていることの一つです。

教育の一例をあげれば、当社は170カ国以上でビジネスを展開しており、海外に30拠点を持つグローバル企業ですが、全世界を対象とした研修をおこなっています。具体的には、「SAKATA Dojo」という教育研修を開き、本社や日本について学んでもらうのです。社員の国籍は40数カ国になりますが、アメリカ、南米、ヨーロッパ、アジアの各地区から数名ずつ日本に来てもらう。そして当社の理念や戦略の理解を深めたり、同僚とディスカッションするだけでなく、富士山にのぼったり、日本旅館に泊まって温泉に入ったり。生け花やおにぎりづくりにも挑戦してもらいます。

このときに大事なのが、自分をゼロにして研修に臨んでもらうこと。そうでなければ自分の国と比較してしまって、新しいものが入ってこないからです。自分という人間の根をたくましく茂らせ、自分を大きく育てていくためには、どんなものからでも学ぶ姿勢が最も大事なのではないでしょうか。

植物も人間も生き物です。なかなか芽が出ないときもあります。そんなときにどう考えるべきなのか。(つづく)

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