現在8期連続最高益となる神戸物産。好調を支えているのは、「星の数ほどある失敗」だと言います。その失敗をもとにヒットを生み出してきた沼田社長は、高確率で失敗を成功へ導いてきましたが、そのために行った「あること」とは?(2023年1月9日レター)
「業務スーパー」を展開する神戸物産は、もともと私の父が作った会社です。先代からこの会社を引き継いでもう10年になりますが、私が大きく変えたことといえば、トップダウン体制だったところを、ボトムアップで社員が積極的に商品開発や新規事業にトライできる社内風土を作りあげたことです。
神戸物産は「業務スーパー」の快進撃もあり、おかげ様で8期連続最高益を更新し続けています。好調なときほど、トライアル・アンド・エラーを重ね、新商品開発や新事業に挑戦しなければいけません。「現状維持をしよう」と思えば、今やっていることをただ繰り返すだけなので、社員も経営者としてもラクなのはわかっています。しかし、そのラクに流されていては、必ず足元を掬われます。当たり前ですけど、その間、競合相手は負けじとあの手この手で攻めてくるわけですから、現状維持していたらあっという間に我々の取組みなど陳腐なものになります。ですから、好調なときほど、「一層引き離してやろう」という気持ちでないと成長を続けることができません。
先代は、「新規事業なんて、100回に1回成功するかどうかだ」と常々語っていました。日本電産の永守重信さんなど名経営者と呼ばれる多くの方も、もっと厳しい確率の数字を挙げて、「挑戦なんて、全然うまくいかない。だから何度だって挑戦しろ」とおっしゃっています。試行錯誤の成功率がそんなものだと私自身もわかっていますが、当たる確率が低すぎてはやる気が起きません。私は、商品開発のヒット率については「3割を目指そう」と自分にも言い聞かせ、社員たちにも伝えてモチベーションをあげるようにしています。野球で打率3割といえば好打者と言える高打率ですが、仕事に10回挑戦して7回も失敗できると思えば、ハードルはそれほど高く感じません。事実、私たちの新商品ヒット率は、3割より高くなっています。
「3割」に特に深い意味はなく感覚的な数字ですが、目標数値があるメリットとしては、意思決定のスピードが速くなるという点があります。私は大学を出たあと製薬会社で働いていたのですが、勤め先は「この有効成分がヒットする」と読むのが業界一早く、真っ先に研究に着手して製品化を目指していました。ただ、意思決定の社内プロセスが煩雑で、市場に投入する頃には二番手、三番手となってしまうことが多々ありました。お客様は一番初めに登場した商品をもっとも手に取りますから、一番手かそれ以下かでは、ブランド力に大きな差が生まれてしまうんです。
逆に、神戸物産は、着手が早いわけではないのですが、ヒットは「3割でいい」という前提があるため、市場に投入するのがとにかく早い。そして、そこからの改善サイクルもものすごく早いんです。悪く言えば「雑」ですが、トライアル・アンド・エラーを繰り返して修正していくうちに、打率もどんどんあげていけるのです。
新商品企画会議でときに社員から、前例がなく、売れるか売れないかまったく予測できない商品を提案されることがあります。開発者は、こだわりをもって提案していますし、このような場合は基本的にGOです。「もう自分たちでも判断がつかないんだったら、お客様に判断してもらうのが一番だろう」という姿勢です。そこから、お客様がなにを求めているのかを理解したほうが早いし、今後の商品展開にも生かせます。
時間をかけて吟味をして、そこそこ売れる商品を作ろうと思えば、かなりの確率でできます。そこそこの商品は確実にお客様の手に取られて損はしないものの、大ヒットに成長した試しがない。売れるかもしれないし売れないかもしれない、“グレーゾーン”の新商品を市場に投下してお客様の声を繰り返し反映させたほうが、ホームランを狙えます。
神戸物産は、前職の製薬会社に比べると組織レベルとしては低いかもしれません。ただ、「利益を出す力」においては、絶対的に神戸物産が勝ちます。意思決定のスピードが速いことは、組織としての質や長年培ったノウハウに勝ります。(つづく)