特定の企業の経営戦略を知ることは、株式投資や就活、営業活動など、ビジネスの様々なシーンで役立ちます。上場企業より公表されている資料を活用すれば、その経営戦略は手に取るように読み解くことができます。実例を見ながら、解説していきましょう。

経営戦略を探る手っ取り早い方法

株式投資、転職、新規の取引先開拓、ライバル会社研究……。どんな目的であっても、対象となる会社の気になることのひとつに「経営戦略」があるはず。どういった市場に向けて、どのような体制を組んでいるのかを理解することで、その会社の強みや弱み、将来性などが見えてくるからです。そうした経営戦略を探る手っ取り早い方法が、上場会社の場合は「有価証券報告書」の「事業の系統図」を見ることです。報告書冒頭の「企業の概況」のなかの「事業の内容」の1項目として掲載されています。

第13話で取り上げたファーストリテイリングの2023年8月期の有価証券報告書を、もう一度開いてみます。「ユニクロ」ブランドのカジュアル衣料を販売する主力の「ユニクロ事業」は、「国内ユニクロ事業」と「海外ユニクロ事業」で構成されています。このほか、「ファッションと低価格」を強みにした「ジーユー事業」があり、国内だけでなく、中国をはじめ海外での展開を行なっていることがわかります。

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さらに、以前にM&A(合併・買収)で傘下に組み込んだ「セオリー」「プラステ」「コントワー・デ・コトニエ」など海外ブランドによる「グローバルブランド事業」と「その他」から、全体の事業が構成されています。同社にとってのお客様は、国内外の消費者であり、グローバル戦略を展開していることが一目瞭然です。

同業他社と比較することも重要で、それを通してファーストリテイリングの経営戦略を際立たせることができます。同じアパレル大手の「しまむら」と比較してみましょう。23年2月期末において、しまむらは国内に全部で2173の店舗を持ち、20代から60代の女性とその家族をターゲットに、実用衣料から寝具やインテリアまで取り扱う総合衣料品店の「ファッションセンター」しまむらが1418店を占めて、主力事業になっていることがわかります。そのほか、ヤングカジュアル専門の「アベイル事業」や、ベビー・子ども用品専門の「バースデイ事業」などもありますが、すべて国内の消費者をターゲットにしています。そのほか台湾に連結子会社があって、40店舗展開しているものの、主軸は日本国内であるのは明らかです。

「ファーストリテイリング:しまむら=グローバル:ドメスティック」という戦略の大きな違いが浮かび上がってきます。ファーストリテイリングは、日本のアパレル大手のなかでいち早く本格的な海外戦略を展開し、これから消費の拡大が見込める海外エリアでの収益の確保に向けた布石を打っています。一方、しまむらは国内重視で一貫しているように見えます。人口減少で国内市場は縮小を余儀なくされますが、国内での競争を勝ち抜くことで「生存者利益」を確保していく戦略なのかもしれません。