キーエンスが圧倒的な売り上げをつくり、社員の平均年収も2000万円を超えているというのは、社員が馬車馬のように働くからではありません。キーエンスの営業パーソンはみな、ハイレベルな提案力に加えて、提案を実際に実現する力が高いため、その結果受注を獲得し、給与水準も高いのです。その強さの源泉は、お客様に対して「リーダーシップ」を発揮することにあるのです。

営業力とは、テクニックではなく、実現力である

よく、「キーエンスは社員を死ぬほど働かせている」とか「キーエンスの社員は30代で家を建て、40代で墓が建つ」といったネタがSNSなどに上がっていますが、元キーエンス社員の私からすると、それはまったく事実ではありません。私が在籍していた当時で、多くのキーエンスの社員は、基本的には8時前後から働き、遅くても21時半には退勤していました。極めて短いということはないかもしれませんが、IT企業や経営者の方からすると、「意外にそのくらいなのか」と感じることかと思います。また休みも年間120日越えており、平均すれば3日に1日は休み。もしかすると、一般的な企業よりも休んでいる日数は多いほうかもしれません。

では、実際は何がすごくて、圧倒的な売り上げをつくることができているのでしょうか。それは、「キーエンスなら、自社を成功に導いてくれる」とお客様に確信させる、提案力と実現力があるからです。キーエンスのトップセールスの方に教えてもらった言葉があります。それは「営業力というのは、実現力なんだ」ということ。「どれだけ営業テクニックを磨いたところで、最終的にお客様のニーズを実現できなければ意味がない」という、ある意味で非常にきびしい言葉です。これは、営業活動だけに限らず、どれだけいい企画だろうが、実現しなければ意味がない——とも捉えられます。

お客様のニーズに応える提案をし、それを実際に実現するためには、お客様よりも一歩二歩先の目線に立って、お客様を導く必要があります。お客様が抱えているであろう課題の解決策がすでに見えている状態から、お客様の現在の状況に対して、「今こういったことにお困りですよね」というように、お客様が抱えている課題を推察し、解決策を提案していくのです。

同じ立ち位置から、単に「何に困ってますか?」と尋ねるのではなく、お客様の工場、お客様のオフィス、お客様の現場を見て、「こういった状態だったら、この担当は、『この工程のこの部分の生産性を上げなければいけない。さらにトレーサビリティや装置の停止の頻度の改善もせよ』などと言われているはず」と仮説を立て、「もしかして上のほうから、こんなことを言われていませんか?」と打診する。

そして、「御社の工程のこの部分に弊社のセンサーをつけていただいて、全体の構成をこういう形にされると、今、人間が目視で行っている作業が全部センサーで代替できるようになって、ラインスピードの向上で生産性が◯◯%ぐらい、コストメリットも年間○○円以上は上がりますよ」といったソリューションを、お客様が気づく前に先行して提案し、実際にニーズを喚起し、実現させる。これがまさにセールスマンシップであり、別の言葉でいう「お客様に対するリーダーシップ」です。