お客様が求めているのが、売られている商品という「モノ」と考えるのが二流。一流は「感動」という体験を売っている——。この違いがわかれば、営業成績はグッと伸びます。お客様に商品を提案するときに必ず押さえておきたい、キーエンス流の提案術を教えます。
お客様は商品を求めているのではなく、感動を求めている
突然ですが、次のホームセンターの店員とお客様の会話を聞いて、「お客様は、“本当は”何が買いたかったのか」を当ててみてください。
【お客様】すみません。穴あけドリルはどこにありますか?
【店員】こちらにあります。
【お客様】ありがとうございます。……うーん、ちょっと高いな。
【店員】穴あけドリルで何をする予定だったのですか?
【お客様】子どもが板に穴を開ける必要があるって言うんです。
【店員】それなら、もともと穴の開いている板がこちらにありますよ。ドリルより安いです。
この会話を聞いて、お客様が欲しいものは「穴が開いている木の板」と答える営業パーソンは二流です。「穴あけドリル」と答える人はもちろん論外です。では、一流は何と答えるのか。
一流の営業パーソンは、「なぜ、それが必要なのですか?」とさらにヒアリングを重ねていきます。この「なぜ、必要なのか(重要なのか)?」という質問の有用性については、第3話でお伝えした通りです。この質問をすると、次のように会話が続くはずです。
【お客様】子どもが板に穴を開ける必要があるって言うんです。
【店員】へぇ、そうなんですね。その穴の開いた板って、なんで必要なんですか?
【お客様】実は、子どもが夏休みの宿題で工作をするみたいで。「お父さん、手伝って」って言われまして。
【店員】そうでしたか。せっかくなら、良いものを作らせてあげたいですね。でしたら、あちらのほうに、子どもでもいろんなものが作れるDIYコーナーがありますよ。ご案内しましょうか?
このあと、「DIYコーナー」で様々な工作キットをお客様が目にしたらどうなるでしょうか? きっとお客様は、喜んで複数の商品を購入し、「木の板」や「穴あけドリル」単体を買うよりももっとたくさんのお金を使うことでしょう。この売り上げの差は、営業パーソンが、一体何を提案したら「お客様が感動するか」を捉え、それに合わせた提案をするかどうかで変わってきます。
この例で、お客様が本当に欲しかったのは何でしょうか。穴あけドリルでもなく、穴の開いた板でもなく、「お子さんとの楽しい時間」だったのではないでしょうか。「僕、こんなの作れるんだね、うれしい!」というような親子の会話であったり、「パパ、ありがとう。夏休みの宿題提出したらね、先生がこんなふうに褒めてくれてね、友達もすごいねって言ってくれたんだよ。ありがとう」という報告やお礼の言葉がもたらす「感動」を求めて、わざわざホームセンターに足を運んでいたはずです。もし仮に、お客様に自覚がなくても、その感動に気づかせることも営業の仕事です。