お客様が課題を話してくれて、それを解決する提案をしたのに、最終的に受注できなかったというケースは、多くの営業パーソンが経験しているはずです。受注につながらない原因は、お客様自身が「本当のニーズ(潜在ニーズ)」に気づいていないからです。どうすれば、課題の根底にある潜在ニーズを引き出すことができるのか? キーエンスで学んだプロセスをお話しします。

「御用聞き営業」と「ソリューション営業」、どこが違うか?

お客様からニーズを聞き出したはずなのに、なぜか受注につながらない……という経験はありませんか。それは、お客様自身が課題とニーズについて表面的にしか認識できておらず、本質的なそれに気づいていないのです。したがって、こちらが表面的な課題とニーズに基づいた提案をしても、お客様は決して満足しないのです。だからこそ、営業パーソンは、お客様の「本当のニーズ」を引き出さなければいけません。この「本当のニーズ」を、私は「ニーズの裏のニーズ」と呼んでいます。

営業パーソンは、お客様の言ったことだけを叶える「御用聞き営業」と、お客様の問題を解決する「ソリューション営業」のふたつに分かれます。そこそこの売り上げを立てられるけど、トップにはたどり着けない二流営業パーソンは「御用聞き営業」、一流は「ソリューション営業」を行います。

たとえば、企業向け研修の販売を行う営業の場合。お客様が「うちの会社はコミュニケーションがうまくいかず、困っているんだよね。社内がギクシャクしているんだよなぁ」と嘆いていたとします。そこで、「でしたら、うちにコミュニケーション研修が上手な講師がいるので、ぜひご検討ください」と、お客様が話す悩みの直接的な解決法を提案するのが、いわゆる「御用聞き営業」です。世の中の多くの営業パーソンが、このような営業を行っているのではないでしょうか。一見、おかしなところはないように思うかもしれませんが、お客様が話すニーズが本当のニーズではなかった場合、つまり表面的なニーズだった場合、受注には至らないか、受注できたとしても低額になってしまうでしょう。

一方で、「ソリューション営業」では、課題の先にある「本当のニーズ」を見つけ出し、それを叶える提案を行います。先ほどの例で言うと、「コミュニケーションがうまくいかない……とのことですが、実際、どんなことが起こっているんですか?」「ギクシャクしているがゆえに起きているのは……どんな問題でしょうか?」と、悩みの根底にある課題を探ります。そうすると、最終的には「実はね、最近結構、営業職が辞めているんですよ」「去年は、営業職は1人しか辞めなかったけど、今年はもう5人も辞めてね」というように、「人材流出」という核心を掴むことができるかもしれません。

お客様自身は「コミュニケーションがうまくいかない」という表面的な課題にしか気づいていなかったが、実は本当に解決したい課題は「人材流出による営業職の人手不足と生産性のダウン」であった——。営業職の流出は、採用費用と人件費コストアップと売り上げの低下の両方を招きます。たとえば、採用コストは、年収500万円の人を5名雇うとなると、人材紹介会社への紹介料35%(5500万円×35%×5人=875万円)と、その人が成果を上げられるようになるまでの期間の人件費が、仮に半年とみて5人分で1250万円(一人あたり250万円)がコスト化します。つまり、人材紹介会社に払う紹介料と、独り立ちまでの人件費を合わせて2125万円のコストアップです。さらに、辞めていった人が月300万円の売り上げを上げていた場合、半年間その売り上げが下がるとみて、300万円×6カ月×5人=9000万円の売り上げが下がります。要するに、このコミュニケーションがうまくいかないという問題は、約2000万円のコストアップと約9000万円の売り上げダウンを起こしている問題であり、これがお客様が本当に解決したいと考える課題なのです。

御用聞き営業とソリューション営業では、一見どちらもニーズを聞き出しているように見えますが、御用聞き営業が聞いたのは表面的なニーズだけ。ソリューション営業では、しっかりとヒアリングを重ねて、「ニーズの裏にあるニーズ」を掴んでいます。もしあなたが経営者であった場合、単なるコミュニケーションをよくする解決策を提示してくる人と、2000万円コストアップに加えて9000万円の売り上げダウンを起こしている問題を解決するための解決策を提示してくる人と、どちらから商品を買いたいですか? 答えは明確でしょう。当然、商品の価格も後者のほうが高くなりますが、それでも売れるのです。ニーズの裏のニーズに刺さる提案をしているから、一流の営業パーソンは売り上げを積み重ねていけます。