社員のマネジメントから事業の拡大まで、すべての責任を負うリーダー。組織の成長や衰退の命運を左右するのは、リーダーの在り方と言っても過言ではありません。では、どのようなリーダーが「チームを衰退させてしまうのか」。破綻した旧カネボウ時代に、数々の「衰退を招くリーダー」を見てきたクラシエホールディングス・岩倉社長が教えます。(2023年6月5日レター)
クラシエは、2004年にカネボウが事実上経営破綻して、事業が分割されたことによって誕生した会社です。クラシエという社名になってから16年。いろいろ問題があったカネボウ時代とは、リーダーシップの在り方や社員の表情が大きく変わりました。社員が上の顔色ばかり見てストレスや疑問を感じながら働く組織と、社員が上に自由に意見を言えて明るい表情で働く組織。両方を当事者として経験している私なりの視点で、リーダーはどう在るべきかを述べてみたいと思います。
いいリーダーは、部下に関心を持っています。見てくれていると思うから部下は安心して仕事ができるし、何か悩み事があれば気軽に相談ができます。早めに相談できれば問題が大きくなる前に対処できるし、一人では解決できないこともチームの力で解決できる。ゆえに強いチームになるわけです。
かつてカネボウの一部のリーダーたちは、部下にほとんど関心を持っていませんでした。カネボウが破綻したとき、私はホームプロダクツ、つまり日用品の事業の販売会社の部長をしていました。当時は売り上げ至上主義で、上司は売り上げにしか興味がなく、それ以外のことで相談したいことがあっても「俺は関係ない」というスタンスでした。
取引先が新商品の商談にきたときの話です。上司に「ご挨拶されますか」と尋ねたら、「そいつは大物か」という。意味が分からずに困っていたら、「支店内で何位のお客様か。売り上げが小さかったら俺は出ない」と返ってきました。
別の日にはこんなこともありました。販売店の方との接待に、卸店の担当者が同席することになりました。メーカーにとっては卸店こそが直接のお客様ですし、販売店との懇親という意味でも間をつないでくれる大切なパートナーです。ところがそのことを上司に事前に報告すると、「そんなのは知らん。お金は出せない」。うちの上司の頭は売り上げのことでいっぱいで、部下の仕事を助けるという発想がなかったのでしょう。カネボウは名門のわりに安月給でしたが、このときは仕方なく自腹で接待しました……。
部下に関心がない代わりに、上には敏感でした。カネボウ本社にとって、販売会社は一次卸のような扱いでした。本社から人がやってくると、上司は「○○さんがお見えになる」と敬語で話す始末。相手はキャリアの浅い若手なのに、わざわざ駅まで迎えに行かされたこともありました。
上司は上ばかり見て自分たちには関心を払わない……。これでは部下は上司のために一肌脱いでやろうという気になりません。チームの士気が上がらないのは当然でした。
破綻後、私は部下一人ひとりに関心を持つことを強く意識しました。上司は派手な数字を挙げるエース社員につい関心が集中しがちです。しかし、チームは四番バッターだけで成り立っているわけではありません。それぞれに特徴や得意なことがあり、それらが組み合わさったときにチームのパフォーマンスは最大化します。そう考えて、一人ひとりに注意を払いました。
では、関心を持つとはどういうことか。普段から見守り話を聞くのはもちろんのこと、役割を明確にすることも大切です。あなたの役割はこれだから、その役割を果たすために困ったことがあれば何でも相談してほしい。そう伝えることで、部下は自分が承認されている感覚が持てるようになります。
ホールディングスのリーダーになった今はさすがに全社員をフォローすることはできませんが、経営幹部にはそのように接しているつもりですし、各事業やチームのリーダーたちも部下たちに気を配ってくれています。それが現在のクラシエのチーム力につながっているのです。