日本酒エキスパート編の第3回。
滅多に手に入らず「幻の日本酒」と呼ばれる酒が、世の中には存在します。そんなとびきり貴重な1本を一緒に飲めたり、贈り物としてもらうことができたなら、日本酒好きであれば最上級のおもてなしになること間違いなし。贈られる側は心底感動してくれるでしょうし、もしかしたら難しい頼み事も聞き入れてもらえるかも。今回は、きわめて希少価値の高い日本酒と、その入手方法についてお話しします。
「幻の日本酒」はなぜ幻になるのか?
「何かこう、手に入りにくい幻の日本酒はありませんか?」
ビジネスの要職にある方々と話す機会があると、こんな質問を受けることがあります。日本酒好きの重要人物を接待、あるいは贈り物をするために、「これは!」と思っていただける候補を探しているそうです。素晴らしい噂は聞くけれど、見たことも飲んだこともない。一杯飲めるだけで、日本酒好きとしては感涙もの。草の根分けてでも探したいが、どこにあるのか見当もつかない。「幻の日本酒」という言葉には、たしかに魅惑的な響きがありますね。
“幻”と称される希少な日本酒に恋焦がれる人に、そのレアな1本を差し出すことができたら、ビジネス上のお付き合いであるにもかかわらず、まるでラブレターを受け取ったような高揚を感じてもらえるかも。「あなたは特別です。心から大切に思っています」という真心は相手にしっかり届きます。米の食文化を持つ日本人にとって、日本酒を通じたコミュニケーションは、特別な感情を共有できるものがあると思います。
市場に出回らない幻の日本酒は、世の中に一定数存在します。入手困難な状況に至る共通の理由は、「生産の絶対量が少ない」こと。こうした少量生産の酒のあり様は、大きく2パターンに分かれます。
ひとつは、最上級の大吟醸酒の中でも“極みの酒”に相当するひと握りの極上品。と聞くと、「黒龍」の純米大吟醸“石田屋”や“二左衛門”、「磯自慢」の中取り純米大吟醸35に代表される銘醸蔵の逸品を思い浮かべる日本酒好きも多いでしょう。このクラスになると、酒米の頂点とされる特上AAA等級の山田錦を使用したり、磨きが30%台の超高精白であったり、繊細な造りのための小仕込み、搾り、貯蔵熟成の方法に徹するなど、原料や製法そのものが希少価値に相当する条件ばかり。加えて、蔵の“掌中の珠”として定番商品との差別化も図らなければならず、ごく限られた量しか出荷できません。
そして、もうひとつの“少量生産”パターンは、酒蔵の生産量全体が少ない場合。日本酒の生産量は、比較的大きいといわれる酒蔵でも石高にして1000石程度。一升瓶換算で10万本にすぎません。小さな地酒蔵になると、長い歴史を誇る老舗でも400石~500石規模は普通。最近は“量より質”の小規模醸造へ転換する蔵が増えていて、一度ブレイクするとたちまち供給量が追いつかなくなってしまいます。最近人気の銘柄では、製造量100万石以下の「日本一小さい酒蔵」として注目されている岐阜県・杉原酒造の「射美」が、このケースに相当します。