コロナ禍でサイゼリヤが導入し、大きな話題を呼んだ仕組みがあります。ひとつは、お客さまによる「手書きオーダー」。もうひとつは、商品の単価を「50円」単位に改定することです。数字に表れる効果だけでなく、思いもよらないところでお客さまに喜んでもらえるという、うれしい副産物もあったとか。周囲からは「思いつき」にしか見えないアイデアは、いかにして生まれたのでしょうか。
「あ、自分の頭は柔らかくないんだ」
「白い紙を取り除くとどのような形になっているでしょうか?」。
紙に描かれた円の上に、白い細長い紙が置かれている。
これは私の記憶の中にある、多湖輝さんの『頭の体操』シリーズの中の一問です。この問題に出会ったのは、小学生のときでした。
まずは、こちらのクイズ(図14-1)に挑戦してみてください。
多湖さんは東京大学で心理学を専攻。心理学研究をもとにしたパズル、クイズの問題集『頭の体操』は、1966年にシリーズ1冊目が発売され、累計1200万部という大ベストセラーとなります。みなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
当時の私は「あまりおもしろくない簡単な問題だな」と思って、このような答えを想像していました。白い紙を取り除いたあとには、きれいな円が残されるだけではないか、と。
しかし、次のページにあった答えは全く予想していないものでした。
「あなたは何通り考えられましたか?」
答えは、図形ですらありませんでした。白い紙に何が隠されているかを、どれだけ自由に発想できたかを問うものでした。そもそも、もとの図形そのものが、答えのページからは消えていました。たんに「何通り考えられましたか?」という文字だけ。
衝撃が走ったのをいまだに覚えています。同時に「あ、自分の頭は柔らかくないんだ」という悔しさがこみ上げてきました。
そのときの体験から、テレビのクイズ番組で裏をかかれたときや、社会に出てからは、自分の考えに検証が足りないと感じるたびに、この絵が頭に浮かぶようになりました。
それは、物事をいろんな角度から見ること、着眼点を変えることの重要性を、私に教えてくれた体験でもありました。おかげで、私の発想力も多少は鍛えられたように思います。