「いいチームはつくった、あとはいい戦略さえあれば」と感じている方に、ぜひ読んでもらいたい内容です。あなた自身で、戦略を立てるためのヒントが詰まっています。(2020年12月7日レター)

日本の敗戦で終わった太平洋戦争。『「超」入門 失敗の本質』を執筆したとき、日米の死者数が(民間人を含むと)約300万人対30万人であることに、私は愕然としました。まさに一方的な敗北だったのです。

なぜ? と考え続けた結果、「日本人が戦略転換をできなかった」ことが、転げ落ちるような敗北を生み出したと、私は結論しています。

では、戦略とは何か?

私は「戦略とは追いかける指標である」と定義しました。日本海軍のゼロ戦は、旋回性能の高さで勝っていました。ゼロ戦の設計時の戦略=追いかける指標は高い旋回性だったのです。だからこそ、空中戦闘のときに相手の後ろに素早くまわり、撃ち落とせました。

初期は、米軍がゼロ戦1対1の戦闘を避けてよいと通達したほどでしたが、すぐに対策(新たな戦略)が出現します。2機が1ペアになり、味方の後ろについたゼロ戦を、もう1機の米戦闘機が援護して撃ち落とす方法です(ダッチ・ウィーブ戦法)。この戦法が確立されたことで、ゼロ戦の優位は完全に消失しました。

日本海軍の戦闘機、ゼロ戦は勝つために「究極の旋回性能」を追求しました。しかし、性能面や価格で一時的に勝利していても、より有利な指標が出現すれば、最終的な勝利は奪われてしまいます。有利な戦略が転換してしまった=イノベーションが起きたからです。

戦略転換=イノベーションと考えた場合、自社のイノベーションが成功しているか否かを測る、一番シンプルなものさしがあります。それは、「これまでと違う消費者」をみなさんのビジネスが獲得できているか否か、です。

例えば、年齢層。これまで40代の人たちが主な対象なら、より若い人か、50代以降の人も新たに来店しているか。男性だけが顧客だったのに、女性も増えているか(逆の場合も)。消費者側が、皆さんの商品やサービスを使う「シーン」「目的用途」が新しくなっているか。問題が発生してから用命してもらうのか、予防的な措置で買ってもらうか。購入側がみなさんの会社を使うのが、問題解決の初期なのか中期なのか、それとも終わってからのアフターフォローか。

つまり、「利用するお客様とその風景」がこれまでと変わる、これがイノベーション成功のシンプルなものさしなのです。利用される方法も客層も、数年前からまったく変わっていない場合、古い戦略が継続している状態なのです。

2020年、コロナ禍の影響であらゆる業界は大きな打撃を受けましたが、イノベーションを確実に成功させている企業は、「新たな消費者との出会い」を必ず経験しています。みなさんは今年、新しいお客様にどれだけ出会いましたか。自社を新しい形で利用いただけるお客様を、どれだけ創造しましたか? 2020年は、戦略転換が求められるときなのです。(つづく)

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