ウソはつかないにこしたことはない。でも、すべて正直に語ることが事態を悪化させるケースは、確かにある。職場のウソは、どこまで許されるのか。
ビジネスコミュニケーションのプロが、ついて良いウソ、悪いウソの境界線についてアドバイス。
「正直に言う」がベストとは限らない
ウソはつかないにこしたことがないのは人としての大原則です。そうとはいえ、ビジネスシーンで常に真実を語り続けるのがベストかと問われると、そうとも限りません。上司と部下、顧客と営業、同僚同士など、立場の違いから必要となる「ウソ」もあります。人材育成の仕事を通じ、成功する人の共通点を長年研究してきましたが、できる人というのはウソがばれませんし、疑われもしない。
ウソは、疑われた段階ですでに社会的信用が大きく損なわれます。減俸や左遷などの具体的措置までいかずとも「あの人はよくウソをつく」という評判が立てば信頼は揺らぎ、仕事を任されなくなってしまう。だからこそ不用意に下手なウソをつく人は出世していきません。
私も管理職時代、部下の多様なウソを聞いてきましたが、すぐばれる人もいれば、なかなか見抜けない人もいました。上司も個々のウソすべてを見抜くことはできませんが、話を総合すると「そうはなりようがない」といずれ気づきます。そういう人に重要な仕事は任せなくなります。
しかしウソつきのレッテルを貼られ落ちぶれていく人がいる一方「ウソも方便」と使いこなし、人からの信頼も厚く成功していく人がいるのも事実です。その違いはどこから生まれるのか。私なりにビジネスシーンで「許されるウソ」と「許されないウソ」を整理してみました。
ウソとひと言で括っても、様々なタイプがあります。保身や自分を大きく見せるためのウソ、なかには部下のミスを自らの過ちだと報告するといった、他人をかばうウソも。すべてウソではありますが、他者を慮っての配慮のウソは、結果としてついた人の株を上昇させていました。
正直に事実を述べることばかりがベストとは限らないのは、就職面接などがわかりやすいかもしれません。
例えば転職活動中の人が面接で前職の退職理由を尋ねられ「職場がブラック」「上司が無能」「やりがいがない」「将来の展望が開けない」と答えたらどうでしょう。事実はどうあれ、面接官の心証がよくなることはありません。むしろ当人の勤務態度やコミュニケーション能力の低さが疑われかねません。ここは多少事実に色を付けてもお世話になった前職へ感謝の念を述べ「しかしながら自分の力を違うところで生かしたい」などのポジティブな話をするほうが相手への印象はよくなります。