ポストコロナの消費行動を一言で言い表すキーワードは何でしょうか。鈴木さんの仮説とは。(2020年8月31日レター)
今回のコロナ禍では世界中の人々、一人ひとりが生活の劇的な転換を余儀なくされた。流通業の世界に身を置いて約60年、オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災と数々の非常事態を経験してきたが、これほど大きなショックは初めてだ。
外出自粛や在宅勤務(テレワーク)、一斉休校などの対策がとられている間、私は2つのことを考えた。1つは、強い強制力を持たない規制に対して、日本国民の大半が素直に従ったことについてだ。これを日本の国民性ととらえる向きもある。それとともに、今の生活レベルが安定しているがゆえに、規制に従わなければ、それが崩れてしまうのではないかという、一種の怯えの心理も大きかったように思う。非常事態になるほど、人間の行動は理性よりも、心理の影響を受けるからだ。
もう1つは、国内消費についてだ。自粛期間中、消費は大きく落ち込んだ。これは、人間の活動の量とモノ・サービスの消費の量は強い相関関係にあることを示している。例えば、サラリーマンの場合、通常勤務であれば、朝昼夜と3食を摂取する。これが、在宅勤務中は朝と昼を合わせて1.5食ですませるパターンもあったことだろう。
また、一斉休校で親御さんは在宅中の子どもの昼食づくりに追われたようだが、その一方で給食産業はストップした。日本全体の昼食の消費量は減少したと思われる。人間の活動量が減れば、必然、消費量も減ることになる。
問題は、ポストコロナ社会において、日本人の消費行動がどう変わるかだ。「新しい生活様式」における「新しい消費」とはどのようなものか。まず、考えなければならないのは、日本社会はコロナ禍以前の状態にそのまま戻ることはないということだ。
大きく変わるのは人々の働き方だろう。在宅勤務は世界的にも拡大の方向にあり、日本でも一定割合で継続させる動きを見せている企業が少なくない。出勤と在宅のバランスを図る動きが広まると予想される。
コロナ対策下の在宅勤務については、「通常勤務よりも長時間労働になった」「効率が下がった」といった声も聞かれた。しかし、これは通勤を前提とした既存の仕組みの上でのことであり、在宅勤務を前提とした人事制度や管理制度の整備、業務のデジタル化が進めば、解決できる問題だろう。
各種の調査によれば、在宅勤務経験者の多くが継続利用を望み、「通勤がないため、時間が有効に使える」「満員電車に乗らずにすむ快適さ」といったメリットも多く指摘された。なによりも、初めての経験により、働き方の価値観が大きく変わったことは想像に難くない。
在宅勤務が一定の割合で継続された場合、人間の活動量は減少し、それにともない消費も減少する。通勤の量が減れば、被服費も、飲食費も、交通費も以前より減っていく。ポストコロナ社会で到来が予想されるのは、まさに、「消費縮小社会」だ。
その一方、勤務以外の自由時間は増える。24時間の時間配分が変われば、消費のあり方も大きく変わる。消費量全体が縮小するなかで、企業に求められるのは、その変化にいかに対応するかだ。今回の連載では、日本人の消費行動の変化を読み解き、さらには変化対応に求められる仕事の仕方を提起する。
かつてない消費市場の一大転換。変化対応できる企業のみが成長し、できない企業は退出を余儀なくされるのみだ。(つづく)