メガネトップを創業した先代のカリスマ社長から会社を引き継いだとき、富澤社長のプレッシャーは計り知れないほど大きかったと言います。社員にとっても絶対的存在だった先代社長のあと、“カリスマ”ではない自分が社員の心をつかもうとした、逆境のマネジメント方法について教えます。(2022年8月8日レター)

メガネトップは、創業者で現会長の父が前身となる平和堂を静岡に開いて46年目、売り上げは800億円を超え業界1位の規模になりました。礎を築いたのは父で、私は2009年に二代目として会社を引き継ぎました。28歳のときのことです。

ある日突然、先代である父から「来年からお前を社長にする」と言われ、青天の霹靂でした。私は一人息子なので、いつか社長になるだろうと幼少期の頃より意識していましたが、まさかこんなに早く就任することになるとは思っておらず、動揺しました。プレッシャーは非常に大きかったです。

当時の私は、メガネトップに入社して3年程度の未熟者で、眼鏡小売業界の知識不足はもちろん、マネジメントを行う立場としても覚えなければいけないことがまだまだあると日々痛感していました。

そんな私に、先代は「事業継承の失敗はえてして継承の準備不足が原因である」とし、早いうちから社長の立場に就いて経験を積むことの重要性を説きました。「万が一、お前がなにか失敗をしても、俺が元気であるうちならばリカバリーできる。失敗と修正の経験を積むことが、本物の社長になる近道だ」と言われ、覚悟を決めました。

先代はカリスマでした。組織をトップダウンで動かし、町の小さな眼鏡店だったメガネトップを全国チェーンに成長させた実績があります。廊下を歩けば一同が一斉に道を開ける……社員に緊張感を与える、絶対的な存在だったのです。

対して私は用意されたポジションに座っただけの二世社長。成果を出して成りあがったわけではなく、就任時は「お手並み拝見」と、試すような視線を浴びたものです。

自分の置かれた立場は頭では理解していたものの、「先代とくらべて力不足と思われたくない」――その一心から、どうすれば社員たちから認めてもらえるか、そんなことに囚われていました。ところが、ふとしたきっかけで、気分が楽になったのです。

先代と一緒に不採算店舗の視察を行っていたときのことです。店に入ると、空気が一変しました。商品陳列や接客態度など、なるべく悪いところが見えないように取り繕っています。社員の気持ちは察してあまりありますが、偽りの姿を見せても本質的な解決にはつながりません。威厳がありすぎる先代と社員の間にはどうしようもなく厚い壁ができてしまっていました。

対して私には社員を緊張させるようなオーラはありません。ポジションは違えども、対等に話ができる。そこが私の強みかもしれない、そう気づきました。

自分は正当に評価されていないと感じていたり、もっと自分はできるんだとくすぶっている社員ほど、一方的ではなく、相互コミュニケーションを求めてきます。社員には会社の一員としてやりたいこと、成し遂げたいことが必ずあります。徹底して目線を合わせ、「あなたの意見を尊重します」と認め、耳を傾けてあげれば、会社やチームへの本音は自然とこぼれてきます。そうした声こそ、会社がよくなるヒントなのです。

よくよく考えれば、売り上げを立てているのは社員たちです。なので、私の社長就任後は、社員にも営業方針を考えてもらい、責任も持ってもらう仕組みに変えていきました。すると、少しずつ社員の目線が社長ではなくお客様へと向くようになっていきました。そして社員一人ひとりの取り組みが積みあがり、会社の成長が加速しました。

社長による強烈なトップダウンも、会社や組織が立ち上がったばかりの頃は有効かもしれません。しかし、組織が大きくなるほど、会社は社長だけではなく社員一人ひとりの頑張りがないと成長できなくなっていきます。必要なのは、天才のリーダーではなく、社員それぞれが自発的に動く姿勢。それを最大限引き出してあげられるのが、凡人のリーダーなのです。(つづく)

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