「サラリーマンとして働いても一生安泰なんて時代ではない、と優秀な社員ほど気づいている」と遠山さんは言います。では、貴重な戦力となる優秀な社員とは、どのように向き合うべきか。(2021年12月6日レター)
新型コロナの影響で働き方や雇用の形が一変しました。会社が敷いたレールに乗って、なんとなくサラリーマンとして働いても一生安泰なんて時代ではない、と優秀な社員ほど気づいています。彼らは「何のために働くのか」を見つめ直したとき、会社のためではなく「自分のため」という結論を出します。自らの能力の向上こそ仕事のモチベーションになり、会社やチームへ貢献することはそれほどプライオリティの高いものではなくなっています。彼らにとって会社は、自分の面倒を見てくれる場所ではなく、自分のやりたいことを実現するための環境に過ぎないのです。
私自身、その考え方に賛成です。優秀な社員ほど新しいビジネスを次々と生み出しますが、アイディアの領域が日常業務を超えたとき、会社から卒業していってしまうことは必然です。もっと広い世界で勝負したいと言う人を、会社やチームという枠でくくってしまうことは、まるで「奥さんを家庭に縛り付ける」ようで古い考えではないでしょうか。
せっかく育てた優秀な社員に辞めてほしくない、という感情は私にもあります。しかし、私はあえて優秀な社員こそ、どんどん逃がす。そして一緒に成長していく、と考えを切り替えます。優秀な社員は、私には持っていなかった視座や気づきを与えてくれます。会社に在籍していなくとも、刺激をもらい続けられる関係性が今の時代には重要なのではないでしょうか。優秀な社員が一生会社に残ってくれる方法を探すのではなく、会社を出た後もお互いのビジネスを相互発展できる関係性を模索するようにしています。
スマイルズでは、優秀な社員が続々と独立しています。たとえば、香川県豊島でコンセプトホテル「檸檬ホテル(現在は休業中)」を開業し、現在は新天地へ向かった酒井啓介さんなどがそうです。私は彼が「辞めます」といった際、一切引き止めませんでした。彼が、地方でのビジネスを通して得た発見を共有してくれることのほうが、東京で挙げてくれたであろう成果よりもずっと価値のあるものだと確信していたからです。
大事なことは、リーダーが社員に対して「いい出口」を用意することです。「いい出口」とは、会社やチームを離れたあとも彼らをサポートする体制を作るということ。すると、社員は安心して「出口」を見据え、将来的に必要となるスキルや経験を得るべく、卒業するまでは携わるプロジェクトに一所懸命取り組みます。計画的に働くので、いざ卒業するときにも、会社やリーダーにとってダメージの残るような辞め方はしません。
ここまでは優秀な社員は辞めていくもの、というお話をしてきました。しかし、ビジネスには「いまここで、優秀な社員に辞められたら困る」という場面があるのは承知のうえ。
私が「スマイルズ」を立ち上げる際、今でこそ起業当初に定めた目標の120%を達成できましたが、それはひとえに私と一緒に働いてくれた社員が頑張ってくれたおかげです。もし、その道半ばで優秀な社員に次々辞められてしまっていたら、今のスマイルズはなかったと思います。
どうしても優秀な社員を逃がしていけないとき、リーダーがすべきことについて私の考えることを、残りの3回でお話ししていきたいと思います。(つづく)