サンリオを退社、結婚、お子様を亡くされ、離婚、乳がんを患い、古巣サンリオの関連会社に復帰、大学院に進学……。さまざまな人生経験を経て、コミュニケーションの重要性を感じ、リーダーが持つべき軸を見つけてきた小巻さんに、部下との向き合い方を聞きます。(2021年8月2日レター)
――会話ではなく、対話をしているか
職場の雰囲気を明るく変えたい、チームのメンバーに、もっとやる気になってほしい……。そんな悩みや課題を抱えるリーダーは少なくありません。実は私自身も、そう願った一人でした。
私は1983年にサンリオに新卒で入社後、結婚退社、出産を経て関連会社に復帰していました。そして2014年、私がサンリオピューロランドの顧問に任命されたとき、その集客数は低迷していました。着任直前、まずは1人の客として久しぶりにピューロランドを訪れた私は、くすんだように沈んだ空気のテーマパークの姿に愕然としました。そして、この部分を改善したら絶対によくなると感じたことをリストアップしてみました。
コンセプトや理念が伝わっていない、スタッフの教育が行き届いていない、ショー、イベント、グッズの連動がない……。そのリストをあらためて分析しながら、私は「問題の根幹にあるコミュニケーション不足を解決すれば絶対によくなる」と確信しました。
着任して、各部署の空気や廊下ですれ違うスタッフの表情、社員が休憩している食堂の雰囲気、会議の様子などを観察していると、スタッフ一人ひとりに殻があると感じました。私とのコミュニケーション以前に、社員同士のコミュニケーションができていない。もちろん、日常のあいさつなど「会話」はあるのですが、「対話」になっていないのです。そのため、個々のモチベーションが高まらず、互いにアイデアを引き出し合う、学び合うといった相互作用が起こりにくい雰囲気でした。
――対話がもたらすのは、利他の精神
会話と対話は、どう違うのか。会話は、日常の中で情報を共有・伝達したり、指示を与える際に言葉を交わすこと。これに対して対話は「楽しい」「悲しい」「うれしい」「ワクワクした」などの感情表現を含むやりとりです。会話は言葉のやり取り、対話は気持ちのやり取りと言えばわかりやすいでしょうか。
「休みの日は何をしているの?」とプライベートに立ち入る話ではなく、「営業先でこんな出来事があって楽しかった」「売上を上げるために、こんな点を頑張っているので聞いて欲しい」など、仕事という共通の目的の上で、感情のこもった言葉を使って気持ちのキャッチボールをする。それがビジネスの現場に必要な対話です。
対話にはゴールはありません。永遠に深まっていくものです。ゴールがないということは、逆にいえば、可能性が無限大だということです。会話の場合は、「いつまでに、何を、どうしてください」「わかりました」で終わりですよね。それに対して対話は、「今日、こんな出来事があってうれしかった」「こんな言葉をかけられて悲しかった」という話から始まり、例えば1年後には、「去年はこう言ってたけど、今はどう?」と、相互理解がさらに深まっていくのです。
互いの理解が深まると信頼が深まる。そして信頼が深まることによって「あの人が頑張ってるから自分も頑張ろう」「あの人のために力になりたい」という利他の精神が育まれていきます。先ほど対話にゴールはないと言いましたが、あえてゴールを設定するなら、利他の気持ちが芽生えたときかもしれません。お互いの感情をやりとりする対話こそが、モチベーションを引き出すコミュニケーションの第一歩なのです。
「メンバーと対話してみましょう」という前に、ある「準備」が必要です。(つづく)