人に任せること、いや、任せきることの意味を語ります。(2021年4月5日レター)
「仕事を任せる」ということは、すなわち「耐える」ということです。一度仕事を任せると決めたら、基本、口出しをしないこと。もちろん、内心では「本当は違うんだよな」「もっとやってもらいたいな」と思うこともあります。でも、そこはグッとこらえて、何も言わずにいる。
ただ、進むべき方向性に対するコメントはします。これは、ネガティブな意味での口出しではなく、「相手のモチベーションを高めるための会話」です。行き詰まっていそうだなというときこそ「それはなかなか厳しいね」「これこれ、こうだね」と積極的に話を聞いて、最後は肩を叩いて励ます。
こちらも「耐える」のだから、仕事を任せるうえで、本人の覚悟も確認しなければいけません。私が三菱商事時代、給食会社(ソデックスコーポレーション・現レオックジャパン)の社長をやることになったときも、当時の三菱商事の役員から覚悟のほどをチェックされました。本当にやるのかと。そのときは精神的にギリギリの状態まで追い込まれるほどでしたが、それはおそらく、不可欠なプロセスだったのだと思います。そして最終的に「よし、任せる」と言った後は、一言も口出しされたことはなかったですね。ローソンのときも、当時の佐々木会長と小島社長は、私の在任中一度も、私のやり方について意見されませんでした。「新浪に任せる」と決めた瞬間に、肚を括ったのだと思います。
現在のサントリーにおいても佐治会長は、私のやり方に対して常に見守ってもらっています。だからこそプレッシャーを感じる。なにも言われないからこそのプレッシャーがある。1899年の創業以来、創業家がトップを務めてきたファミリー企業であるサントリーが、初めて外部から社長を招く……その決断には尋常ならざる覚悟があったでしょう。私は会長から、「任せるっていうのはこういうことなんだな」「つらいけど、胆力で耐えるんだな」と日々学んでいます。きっと意に沿わないことがいろいろとあると思います。私の決めた人事に対しても「わしゃ、こんな人事やらんわ」と思っておられるかもしれません。でも耐えていますよね。あるとき、私がミスを犯してしまったときに、「社長、この件はうまくいかなかったね」と、ニタッと笑われたことがあります。でも、「このようにしろ」と指示をされることはありません。そして、帰り際には「社長、全部がパーフェクトに行くわけがないんだ。頑張れや」って言ってくれるのです。
任される側というのも想像以上につらいことがあると思います。最後、本当に任されているというのも、嬉しいとともにつらいなって。でも、つらいと感じる反面、すごくモチベーションに繋がりますね。大きな仕事を「お前に任せる」と言ってもらえたら、言われた方は「信頼に応えて120%、130%やってやろう!」と思うでしょ。同じですよ。だから私はサントリーの役員から「こうしたい」という声が上がってきたら、すべて受け入れようという気持ちでいます。そうすることが本人のモチベーションになると思うからです。「口を出さない」ということは、モチベーションを上げることとほぼ同義なんです。
私は、仕事を任せた人の進捗や動向は常にチェックしています。「任せる」ということと「心配じゃない」というのは別だから。どんなに立派なリーダーでも、他人に仕事を任せるというのは心配です。ものすごく心配……だけど、それをグッと堪えてこそ、ビジネスリーダーとしての器が広がるんです。(つづく)