田口社長が新規事業を立ち上げる際には考えるポイントや順序があります。田口社長が起業家にとってスキルや経験以上に大切と考えるものとは――。(2024年6月3日レター)
ボーダレス・ジャパンは、社会問題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」のみを行う会社として2007年に創業しました。貧困・環境問題・教育など多様な社会問題の解決に向けて、社会起業家が14カ国で51の事業を展開しています。
いくつか事例をあげると、誰もが参加できる地球温暖化対策として、自然エネルギーを広めていくための電力事業「ハチドリ電力」や、バングラデシュの貧困層における雇用創出を実現し買い手のはたらくを応援する「ビジネスレザーファクトリー」、返礼品ありきではなく地域をよくするプロジェクトを選んで寄付を募る「ふるさと納税forGood」などがあります。
新しいビジネスを立ち上げる際には、まず社会問題の現状、理想の状態、対策について検討するソーシャルコンセプトと、それを実現するためのビジネスモデルを考えます。そして、PoC検証
の実施と収支計画の策定を経てビジネスプランが完成します。特に、ビジネスモデルについては、頭がちぎれるほどに熟考します。ここが、ビジネスが成功できるか否かを決める大きな要因だからです。ボーダレス・ジャパンでは、新規事業が立ち上がる際に社長会での承認制を導入しています。社長会には51事業の社長たちが全員参加しており、起業家のビジネスプランの発表を聞いて8割以上の賛同が得られれば、そのビジネスプランは「承認」というルールになっています。起業家たちはこの場について、ビジネスプランを、よりインパクトを生む事業へと確度を上げてくれる機会といっています。世界各国で社会問題と向き合う先輩起業家たちからのフィードバックが、よりインパクトを生む方法を一緒に考えてくれる時間になっているからです。
これまで、多くの起業家たちの事業立ち上げに立ち会ってきましたが、大切なことは自分が絶対にやり遂げるという覚悟があるか否か、です。初めは赤字が続いたとしても、どんなに困難なことがあっても、成功するまでやり遂げる強い気持ちがあるか。これが重要な要素です。
スキルや経験は本気でやりたいことに向き合ってきた時に身につくものです。ソーシャルビジネスは、立ち上がりに苦戦したり、インパクトが出づらかったりするものもありますが、事業を追求する強さこそが起業家が持つべきものだと感じています。
たとえば、直近で事業承認を受けた、大阪府豊中市で知的障がい者の雇用を生み出す事業があります。これは、「きのこ栽培」を中心とした循環型農業を実施し、支援学校を卒業した後の知的障がい者の方を正社員として雇用するものです。
循環型農業といっても最初からうまくサイクルが回るわけではありません。事業計画の段階から、栽培手法や収穫後の販売形態などさまざまな課題がありました。しかし、うまくいかなかったときに諦めてしまうのか、いやいやここからが勝負だと頑張れるのか。最初はうまくいかなくても、成功するまでやり続けるという腹がすわっているかどうかが重要です。
この条件がそろえばビジネスが成功するということは未だに明確に言えません。うまくいくと想像していたビジネスがそうではなかったり、その逆のケースもあるからです。それでも自分の人生を通して絶対にやりたい、やるに値するものであると腹落ちできていればビジネスが成功する確率は格段に高くなると思います。