海外を含めて354店を展開する東横インでは各ホテルの支配人に大きな権限を渡して舵取りを任せています。支配人の9割以上は女性。黒田社長はどのような方法で関係を構築しているのでしょうか。(2024年4月1日レター)

東横インは1986年の創業以来、ビジネスホテルというカテゴリーを牽引してきました。東京都蒲田の地に第1号店をオープンしてから38年。いまでは世界各国を含め354店を運営するホテルチェーンに成長しました。父が創業した当初より、各ホテルの支配人に舵取りを任せるという方針を貫いてきました。

支配人の9割以上が女性であり、支配人は収支管理や新規雇用の対策、自治体との連携など幅広い責任を持っています。一棟を任せられているという責任感が、支配人の働きがいにつながっているのだと考えています。

2008年に副社長として復職したとき、私は30代でした。当初は、「なんだ、この小娘は」「あの人が社長で大丈夫か?」「あの人は社会人としての経験が少ない」と不信感を持った支配人もいたと思います。苦言を直接受けたこともありましたが、だからといって私が腹を立てたり、対立することはありませんでした。なぜなら、その通りだから(笑)。

創業者の娘といっても実績はないのですから、支配人たちが不安になるのも無理はありません。当然のことでした。それに、「この小娘で大丈夫か」「こんなヤツじゃ困る」と不安を覚えるのは、会社を守りたい、ホテルを守りたいという強い意欲があるからです。会社を成長させる推進力は、私ではなく各支配人にあります。だとすれば、「はい、申しわけありません。教えてください」と頭を下げて、力を借りるのが正しいあり方だと思いました。

私が権限や職務を支配人に任せる際には、現場の声を丁寧に拾い上げることが大切だと考えています。「まだまだ現場をわかっていない」との声をいただくことはありますが、現場を理解する努力を続けています。2012年に社長就任後、1年に1回は支配人と1対1で20分程度の個人面談を実施しています。

個人面談では、こちらの考えを伝えるのではなく、支配人としての意見、頑張り、課題、悩みを聞き出し、話してもらうように心がけています。最後に、必ずプライベートのことも聞くようにしています。女性が働くには、家庭が安定していないと難しいですから。介護の心配はないか、育児で悩んでいないか、ご自身の健康は問題ないかなど。そこで初めて悩んでいることを打ち明ける方もいます。

現場の声を聞くことの重要性を教えてくれたのは、父でした。東横インは、創業者の父が電気設備工事業のかたわら、副業として始めた事業です。父はホテル業とはまったく無縁だったので、お客様と直接接する支配人の声を聞いていたんですね。「わからないから、教えてほしい」と。

現在、パートタイムを含むと1万7000人の従業員が働いていますが、中小企業にも負けないほど、経営側と従業員の距離を近くしたいと考えています。そのためにも、現場の声に寄り添っていこうと心に決めています。それがホテルの成長につながっていくと考えているからです。

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