想いを伝える言葉を常に考え続けている喜多村会長。腹落ちする言葉が降りてくるのは、不思議なことに日曜日が多いと言います。経営トップと顧客や社員を結ぶ言葉の工夫を紹介します。(2024年2月5日レター)
私は、「日本を世界のショールームに」、「世界中にTOTOファンを増やす」、「(TOTO from JAPANではなく)その国のTOTOになる」といった、ひと言で伝わる言葉をよく使います。TOTOの精神を世界に根付かせたいという願いを込めて、私がつくった言葉です。自分の想いを伝える言葉ですから、自分が腹落ちしていなければ、人々を説得することはできません。
このように短くて伝わる言葉を、いつも頭の片隅で考えています。何度も書いては考え、また考えては書く。もっと伝わりやすい言葉はないか、もっとシンプルな言葉はないかと、時には何カ月も考え続けています。
考え続けていると、不思議なことに週末、特に日曜日に言葉が降りてくることが多いです。洗車した後、庭でぼんやり休んでいるときなどに、突然これだ! と稲妻が走る。きっと、休みの日に一番考えているんでしょうね。
ラグビーのワールドカップやWBCなどで、毎年海外から大勢の人が来日します。日本はホスピタリティに溢れた国です。食事はおいしいし、安全で、魅力的な観光資源も数多くあり、もてなす心も美しい。お客さまが良い思い出を持って帰れるのに、そのせっかくの思い出をトイレで汚したくない、と思います。
私は、日本のトイレは世界一きれいだと確信していますし、お客さまにもそう感じてほしい。トイレは主役にはなれないけれど、名脇役になれます。そんな想いを込めて生まれたのが「日本を世界のショールームに」と言う言葉なんです。この一言で、社員にも世界中のお客さまにも、私の想いを伝えることができます。
「世界中にTOTOファンを増やす」も、推敲を重ねて降りてきた言葉です。たとえば、私は常々アフターサービスの担当者にこんな話をします。
「製品が故障してしまったときには急いで行こう。行ったらまず頭を下げて謝ろう。きれいな靴下を履いていき、靴を揃えて、心からすみませんでしたと。そして修理が終わったら、トイレの周りを綺麗に掃除して帰ろう。“早く来てくれてありがとう”と言われるかもしれないけれど、感謝されるのはおかしい。本来故障を起こしたのはこちらなのだから。でも、もし気持ちよくありがとうという言葉をかけてもらえるのだとしたら、それがブランドじゃないのかな。この安心の積み重ねがあるからこそ、TOTOのファンになってくださる」と。この想いを共有してほしくて、繰り返し社員に伝えています。
「世界中にTOTOファンを増やす」と言えば、アフターサービスだけではなくて、製造担当も、営業も、すべての社員がそれぞれの持ち場でこの言葉が持つ意味を腹落ちしてくれます。このように、事業経営にとって、短くて想いが伝わる言葉は、何よりも大切なものと考えています。