多くのリーダーは、不確実ゆえに成功モデルのない世界に生きており、未来を自分の手でつくっていくことが求められています。だからこそ、自分の能力を超えた部分を補ってくれる人が必要だ、と桜井さんは言います。(2021年7月5日レター)

「人脈を持っているか」と話になると、「名刺を何千枚も持っている」など「数」のことととらえる人が多いと思います。また、頻繁にゴルフや食事を共にしたりと、会う頻度をイメージする人もいるでしょう。

私が考える「理想の人脈」とは、リーダーに訪れる難局、「困ったな」「手詰まりだな」という場面で、陰ながらサポートしてくれたり、思わぬ方向からアドバイスをくれたりする方々、その方々とのつながりのことを言います。言い換えれば、自分の能力を超えた部分で力を貸してくれる存在、または、自分に成長機会を与えてくれる存在です。

絶妙なタイミングで手をさしのべてくれるのは、意外にも、「近く」にいる人でありません。なぜか「つかずはなれず」の間柄であることが多いと感じます。「つかずはなれず」でありながら、いざというときに道を拓いてくれる、そんな貴重な人との関係をふりかえると、もう1つの共通点があります。それは、損得勘定がない仲であること。「お金のためのつながり」になった瞬間、やはりお互いが期待に沿ったアイデアを持っていこうとするはずです。

損得勘定のない人に助けられた――。私には、原体験があります。旭酒造に入社して2年目、海外販路拡大のため、ニューヨークに赴任したときのことです。「海外赴任は栄転」なんて、とんでもない。「リーダーは苦境に立て」がモットーの先代社長に、英語も話せず営業力も未熟のまま、孤独の地に放り込まれたのでした。現実は厳しく、何軒回ってもまったく興味を示してもらえません。がっかりして行く先と言えば、「獺祭」を置いてくれている店です。すると、お店の人たちが常連客を私に紹介してくれ、顔なじみになっていきました。一緒に飲んでいるうち、私自身にも興味を示してくれるようになり、私もまた、彼らに興味を持ちました。もちろん、彼らは取引先ではありません。お酒を買ってくれるわけでもありません。個人対個人の関係です。

しばらしくて、思わぬことが起こります。彼らが、自分の通う店に「獺祭を置いてみたら?」と営業してくれるようになったのです。"営業部長"たちの声がけは大きな反響を呼び、注文が次々と舞い込んできました。私は、彼らがつくってくれた取引先で、さまざまな知見を吸収することができました。

私から「獺祭を売り込んでよ」とお願いはしていません。彼らもまた、見返りに獺祭をタダで飲ませてもらおうなどとは思っていません。ではなぜ、私を助けてくれたのか。もちろん、「お酒を気に入ったから」というのもあるでしょうが、第一は彼らと私の「波長」が合ったからではないかと考えています。これこそ、私が理想とする人脈の重要な共通点であり、外すことができない大前提ではないかと思います。

「波長が合う仲」というのは、実は稀なことです。まず相手がどのような人となりで、何に興味を持っているのか。会話が膨らみ、初対面であっても相手との時間が心地よくなる。狙ったのではなく、自然とそうなるのです。相手との共通点が1つではなく、2つ、3つと見つかったなら、もしかしたら、その人はもう特別な存在なのだと思います。特別な人とは、しばらく会わないでいても、ブランクをまったく感じないから不思議です。

皆様におすすめしたいのは、コミュニケーションの場面で相手とシンクロする姿勢を持つことです。自分から、相手に興味を持つことです。そうすれば、1人、2人と特別な人が現れるはずです。最初は個人対個人だった関係が、急に広がる瞬間があります。そこにもまた、共通点があります。次回、お話ししたいと思います。(つづく)

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