川端さんは、ビジネスの失敗の9割がコミュニケーション不足によるものとし、コミュニケーションの問題をひとつひとつ解決していくことで、結果が出るのだと言います。チームのメンバーはもちろん、上司やお客様にあなたの発したいメッセージは伝わっているか。全4回を通じて、今一度、見直す機会にしていただけたら幸いです。(2021年6月7日レター)
2014年に42歳でアース製薬の社長になって以来、「コミュニケーション」の大切さを社員に訴え続けています。なぜなら、私の経験上、失敗の9割以上がコミュニケーション不足によるものだからです。
私が入社したのは1994年。当時は売上300億円弱でしたが、いまは2000億円規模の会社へと成長しました。あの頃と比べると、事業内容が格段に広がり、組織が大きくなり、人員も増えています。面と向かって話をする機会は減ってしまい、ネットなどでやりとりすることが大半になりました。
コミュニケーション不足でよくあるのが、相手先に伝えるべきことが伝わっていなかった、ということです。後から「言った」「言わない」の話です。相手の立場になって、全体状況やプロジェクトの狙いなどを具体的に説明していたのか。相手が腹落ちするまで言葉を尽くしていたのでしょうか。そういうコミュニケーションの基本的なことも含めて、この連載では、会社経営からみたコミュニケーションの大切さについて、触れてみたいと思います。
まずは社長がすべき「コミュニケーション」、その一つが組織改革の狙いをきちんと伝えることです。社長就任の翌年立ち上げたマーケティング総合戦略本部(現・マーケティング総合企画本部)が、その代表例といえるでしょう。
それまでは販売部門、開発部門それぞれにマーケティング機能を担う部署があり、ごきぶりホイホイなどの大ヒット商品を生み出してきました。社長のセンスで商品づくりが成功していた時代は、それでよかったのです。しかし、商品のアイテム数が多くなり、お客様のニーズが多様化し、商品のライフサイクルはどんどん短くなっています。そうなると、市場のデータ分析なども反映して、機動的かつ柔軟に商品を開発する体制へと変えないといけません。
また、販売と開発部門の連携がスムーズにいっていないことも、抜本的に改善しなければなりませんでした。この組織立ち上げは、マーケティングの変革を始めますよ、という経営の考え方を示す「コミュニケーション」でした。これがいかに重要なものであったかを社員に理解してもらうため、マーケティング総合企画本部の会議には私自身も出席し、いまも真剣に議論しています。
中期経営計画(以下、中計)も、社長がすべき大事な「コミュニケーション」だと考えています。中計と言えば、IRの一環で株主や投資家向けに公表しているもので、自分たちの仕事にはあまり関係がないと思っている社員がほとんどでした。しかし、会社のこれからの方向性を社員にきちんと伝えるのに、これほどきちっとした指針はありません。中計のことを理解してもらえたら、社員全員のベクトルが一致するはずです。
私は一社員のときから、会社が将来どうなっていくのか、そのビジョンを知りたいと思っていました。自分のいる会社がもっと成長してほしい、そのために自分はこの仕事を頑張ろう。それが報われれば、自分がもっとステップアップしたことがやれるようになる、と考えていたからです。
わが社の中計は「Act For SMILE」といいますが、名称を社内公募しました。公募したことで、中計の存在を知った社員もいれば、また応募するにあたり、中身に目を通した社員もいるでしょう。また、横文字や経営の専門用語はできるだけ使わないように配慮をしました。それでも、「ESG・オープンイノベーション」、「コストシナジーの創出」などという表現が出てきますが、これ以上かみ砕きようがありません。社員全員にわかりやすく伝えるには、どうすればよいのか。
たとえで言うのですが、経営学者ピーター・ドラッガーのマネジメント理論が優れていると言われても、理解するにはハードルが高い。それをわかりやすく小説化した「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」はベストセラーになり、多くの人が手に取ったわけです。本質を損ねることなく、わかりやすく「コミュニケーション」できるなら、中計の小説版や漫画版も用意すべきなのかもしれません。ともあれ、今年発表した中計「Act For SMILE‐COMPASS 2023‐」は、私が社長になって2回目です。1回目より社員に浸透していくものと期待しています。
ビジネスリーダーの皆様はまず、メンバーとのコミュニケーションは足りているか、そこを意識してみてはどうでしょうか。(つづく)