「新規事業」をテーマにしていますが、「未経験の仕事」と広めに捉えれば、ほぼすべてのリーダーに関係します。未知のビジネスへの挑戦に際し、どう考えればいいか、どう進めればよいか、ぜひ参考にしてください。(2020年11月9日レター)
人間というのは、もともと安定を求める性質を持っていて、変化を好まない。やり方を変えるより、同じように繰り返すことを好む。新規事業をはじめるにあたっては、そういった人間の性質が、最大の障害になる。そもそも何かにチャレンジすること自体が、かなり難易度の高いことなのだ。こうした認識をふまえ、私から見た、新規事業の一番のポイントは「誰に任せるか」である。
新規事業にとって「人」が最重要であることは、誰もが知るところで、しばしば「新規事業には、どんな人が最適なのか」という質問を受ける。私が、新規事業に向くと思うのは、まずは強い目標と意志を持っている人だ。大まかに、「こういう社会を実現したい」とか「この会社でこういうことをしたい」といったイメージがあること。ただし、プロセスまで明確に描けている必要はない。むしろ、プロセスにこだわりすぎない柔軟な人がいい。なぜ、こういうタイプがよいのか――。
一つは、かんたんにはあきらめないこと。ゴールイメージがあるから、結果が出なくても、周囲の評価が微妙でも、続けることができる。実現したあとの状態が想像できるから、自分のビジネスを愛し、楽しんで進んでいける。続けているからこそ、どこかのタイミングで壁を突破できる。新規事業ですぐに結果が出ることなど、ほぼない。だからこそ、折れない芯を持っていることが何より重要だ。
もう一つは、ゴールに到達することを最優先しているからこそ、そのプロセスにはこだわらないこと。ビジネスに限らず、成功までの道のりには、いくつものパターンがある。登山に例えるなら「絶対にこのルートで登る。これしかない」と、自分の決めた道にこだわってしまう人は失敗しやすい。フレキシブルに、状況によってルートを変えることで、登頂の成功可能性を上げることができるが、プロセスへのこだわりが強すぎる人は、そのことをまったく理解しようとしない。
さらにいえば、ビジネスにおいて「自力で登る」というルールすらない。誰かにお願いして、鶴の一声でいきなり目標達成できてしまうこともアリなのだ。ヘリコプターで登頂してもいい。それをよしとせず、真面目に一歩一歩登ってやろうというタイプは、新規事業には向かない。自分が決めたルートで成功したいがために、よいアドバイスがあっても聞き入れない。自分の明日の命すら予想できないのに、3年後、5年後のビジネスを読めるはずがない。最初に描いたルート通りにゴールできるのであれば、誰も苦労はしない。
一方で、既存事業を伸ばすのに向くのは、「踏襲型」の人だ。前にやっていた成功パターンをなるべく同じようにやろうとする。成長市場・人口増だと繰り返し傾向でも問題ないかもしれない。ただ、それだけでうまくいくほど、ビジネスはカンタンではない。成長も終わりがあるし、人口増も限界があり、要所、要所で新しいアイデアが入らないと伸びない。単純に繰り返していれば良いわけではないのだ。おおよそ事業全体の20%くらいは、新しいことに入れ替えていく必要があると思う。
工夫をして、新しいアイデアを入れていく様子をよく観察すると、踏襲型と思われていた人のなかに、新規事業もやれる人が隠れている。そういった人材を見つけ出すのも、リーダーの重要な仕事の一つだ。(つづく)