ビジネスに逆境はつきもの。突破できる人とできない人は何が違うのか? 学研ホールディングスを経営危機からV字回復させた宮原社長が考える「逆境を突破できる人の条件」とは?(2023年4月3日レター)

みなさんがリーダーとして目指しているのはナンバーワンでしょうか。それともオンリーワンでしょうか。ヒット曲の影響からか、近年は「人と競争して1位を目指さなくてもいい。オンリーワンになって競争を避けるべきだ」と考える人が少なくありません。

人生をそのような価値観で生きるのはいいでしょう。しかし、ビジネスではつねにナンバーワンを目指すべきです。ビジネスでオンリーワンに価値があるのは最初だけ。本当に価値あるものならば、すぐに大手が参入して競争が始まります。個人の生存戦略としても得策ではありません。オンリーワン人材は組織内で居場所を確保できるかもしれませんが、そうした社員が増えてナンバーワンを目指さなくなれば、いずれ会社が競争に敗れて組織そのものがなくなってしまいます。ビジネスの世界において、オンリーワンでいいという考えは危険な自己満足なのです。

私自身がナンバーワンを強く意識するようになったきっかけは阪神・淡路大震災でした。もともと私は防衛大学出身で、戦闘機のパイロットを目指していました。残念ながら途中で志を捨てざるを得なくなり、紆余曲折を経て、学研の勤務地限定社員として神戸支社で働き始めました。私の配属は「学研算数・国語教室」、略して「算国教室」。社内でも扱いが軽いうえに、仕事が多くて人の入れ替わりが激しかったことから「残酷教室」と揶揄されていました。そこに配属された勤務地限定社員ですから、私は最下層です。ある研修に応募して、いったんは選抜メンバーに選ばれたものの、本社から「勤務地限定社員はダメ」と取り消されるようなありさまでした。

ひどい扱いを受けても、私個人の話だけならまだ「なにくそ」と頑張れます。しかし、阪神・淡路大震災で一線を越えました。神戸は震災の被害を受け、算国教室の会員や先生方がたいへんな目に遭いました。しばらくすると本社から義援金が送られるという情報が届いたものの、対象は『学習』『科学』の代理店などに限られ、算国教室の先生方には1円も渡らないことがわかりました。私がいち早く提案した復旧プランも本社に却下されました。プランの内容が悪いならまだわかります。しかし、「君ではなく本社が決めること」で一蹴されてしまうのです。

このとき直面したのは、決裁権がないと人を救えないという現実でした。決裁権を持つには、ナンバーワンになって実績をつくり、出世するしかない――。こうした経験を経て私はナンバーワンを目指すようになったのです。

そこからは質だけでなく、数字でトップを取ることにこだわりました。といっても、特別なことをしたわけではありません。私は防衛大学校の卒業生であり、民間企業で結果を出す能力はありませんでした。むしろ金儲けは下手なほうです。能力が足りないとすると、やるべきことは一つだけ。圧倒的な努力です。圧倒的な努力こそ、我々をナンバーワンに導いてくれます。

どぶ板営業も相当やりました。現在、私は社長になってM&Aを積極的に進めていますが、そのときには必ず自分の足で候補先をリサーチします。メディカル・ケア・サービスのM&Aを検討したときは300拠点のうち30拠点に行き、従業員のみなさん、利用者の方々の様子を観察しました。保育園を運営するJPホールディングスと業務提携をする前にも、開園前の朝7時半に内緒で保育園に何度も行きました。いずれにしても自分の目で確かめるのが私の流儀です。どんなに忙しくてもそれを厭わないのは、神戸支社時代に徹底的にどぶ板営業をした経験がベースにあるからです。

圧倒的努力の甲斐あって全国でトップの成績をあげ、私は2003年に本社勤務になりました。その後はスピード昇進して2010年に社長に抜擢されました。学研は減収傾向が20年に渡って続いていましたが、先ほどのM&Aを含めさまざまな取り組みを行い、V字回復を達成しました。学研をナンバーワンの会社にしようと、現在も努力を続けています。オンリーワンでいいと思っていたら、V字回復は実現しなかったと思います。

ここまでは、なぜナンバーワンになることが重要なのかをお話してきました。次回は、ナンバーワンを目指すにあたり、「自分を突き動かす原動力は何か」ということについて、お話しします。(つづく)

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