子どもたちを「メシが食える大人」そして「魅力的な人」に育てることを理念とする学習塾「花まる学習会」の教育術は、部下のマネジメントに活かせる点が多くあります。どのような声掛けが、部下の能力を急成長させるのでしょうか。(2022年11月7日レター)

子どもに「メシが食える大人・モテる人」になってもらうため、花まる学習会を設立して29年になります。メシが食える大人とは、税金をきちんと納められる社会生活をする人。モテる人とは、人に必要とされる人のこと。普段はそうした人物像を目指して子どもたちを指導していますが、根本は大人も同じ。ビジネスパーソンも「メシが食える大人・モテる人」になって、子どもたちにお手本を示してほしいものです。

経営者や管理職のみなさんは、すでに「メシが食える大人・モテる人」になっているでしょう。ただ、若い社員がそうなっているとは限りません。そこでやる気のない部下や真面目だけど伸び悩んでいる部下をどう育てたらいいのか、教育現場の視点からヒントを提示してみたいと思います。

みなさんのチームに、仕事はこなすけど、いかにもつまらなそうにしていて、力を発揮しきっていないように見える社員はいないでしょうか。上司からすると「無気力な部下」。しかし、本当にその部下は仕事が嫌いなのでしょうか?

ある小学生のお母さんから、「この子、頭がおかしいんです」と相談を受けました。聞くと、子どもの部屋を掃除していたら大きな缶が3つ出てきて、中に消しゴムのカスがびっしり詰まっていたとか。お母さんは驚いて相談にきましたが、私はその話を聞いて何の心配もないと思いました。

むしろ心配なのはお母さんのほうです。おそらくその子は消しゴムで字を消すとき、長くつながったカスを見て「なげー、新記録!」と喜んでいたはず。ただ、それをお母さんに言うと叱られるので、缶の中に入れてこっそり隠していたわけです。子どもは何かしら自分がワクワクできるものを持っています。ところが親は子どもに「これが正しい」という枠を押し付けて、そこに当てはまらないものを排除してしまう。それを続けていくと、中学や高校にあがるころには枠組みばかり気にして、自分のハートを見ない子どもになります。

無気力に見える部下は、その延長線上にいます。会社が求める枠組みはクリアしようとしますが、ワクワクしていないからパフォーマンスは悪いし、新しいことにも挑戦しない。そして何より本人が不幸せそう……。

みなさんも職場で、消しゴムのカスを見つけて心配したお母さんになっていないでしょうか。気持ちはわかりますが、上司に求められているのは逆の態度。部下のワクワクを見つけて伸ばしてあげるべきです。

部下にストレートに「どんな仕事をやりたいのか」と聞いても、「べつにやりたいことはありません」と返ってくるかもしれません。枠組みの中で生きることに慣れた部下にとっては、それが本音なのでしょう。その場合は、いきなり仕事の話をするのでなく、子ども時代の話を聞くといいと思います。「昔は何に熱中していたの?」「実は消しゴムのカスを……」「いいね」と、かつてのワクワクを思い出させたうえで、今の仕事の中でその気持ちを感じるものがないか聞くのです。

もし何かあるなら、それを重点的にやらせてあげましょう。一方、今の部署にやりたいことはなく、「本当は営業をやりたいんです」「別の業界に興味があります」というなら、そのキャリアが実現するように後押ししてあげてください。次のステップにいくために、今の環境で磨かなくてはいけないものもあるはずです。「ここで実績を出したうえで社内公募制度に応募したほうがいい」「転職したいなら、このスキルを身につけるべき」と今の仕事と絡めて後押しすれば、目の前の仕事にも真剣に取り組むでしょう。

親身になって相談に乗ると「居場所」感が生まれて、それが好循環を生むこともあります。いままで避けようとしていた仕事のいい面に気づいて、ワクワクが芽生えてくるのです。不登校で勉強が苦手だった子どもが、フリースクールなどで居場所を得て勉強好きになった例は枚挙にいとまがありません。居場所を必要としているのは若い社員も同じ。「やる気がないやつの面倒は見ない」と突き放すのではなく、「何でも話していいし、それを応援するよ」と言ってやりましょう。いずれにしても、部下を「無気力だ」と切って捨てるのは厳禁。上司のマネジメントしだいで部下は本来の力を発揮してくれるのです。(つづく)