張さんは日本、中国で複数の会社に勤めた経験があります。中国成長企業のリーダーの強みのひとつとして、張さんは「学習能力」を挙げます。(2022年5月9日レター)

いま中国の企業が元気です。背景としてさまざまな理由が考えられますが、リーダーたちの手腕もその一つでしょう。では、中国の成長企業のリーダーには、どのような強みがあるのか。複数の会社に勤めた経験から、私なりにリーダーシップについてお話させていただきたいと思います。

中国のリーダーに求められている力は三つあります。まず一つは「学習能力」です。たとえば、私の大先輩の一人、ジャン・ヤーチンさんは学び続ける人でした。ジャンさんはマイクロソフトの上級副社長を務めた後、バイドゥの社長になりました。

週末になると、リフレッシュのためにインターネットでエンタメを楽しむ人は多いと思います。私もその一人で、TikTokの動画を見たりFacebookで友達の近況を見て楽しんでいました。しかし、ジャンさんは「週末にはAIの論文を読む」と言って私を驚かせました。

ジャンさんはバイドゥを退職して、現在は大学に身を置いています。トップに立つ人でも、いや、トップに立つ人だからこそ、つねに最前線の情報を知るために勉強を続ける――。こうでなければ真のリーダーにはなれないのだと悟り、それ以降、私も時間が許す限り、AIや社会学の論文を読むようにしています。

もちろん学習能力は中国のリーダーの専売特許ではありません。実をいうと、私が学習の大切さに気づいたのは、日本のリーダーの言葉がきっかけでした。

学生のころ、私は天津の南開大学でMIS(マネジメント・インフォメーション・システム)――コンピュータ工学と経営を融合した学問を専攻していました。図書館で勉強中、何かの雑誌を手に取ると、日本の経営者10人にアンケート調査をした記事が載っていました。その中の一つに「もし20歳に戻ったら何をしますか」という質問があり、どなたかが「新しい外国語を学びたい」と答えていました(残念ながら、どなたかは覚えていません)。

当時、日本企業は飛ぶ鳥を落とす勢いでした。そのトップリーダーが新たな言語学習に意欲を見せているのに、ただの学生が専攻している学問だけを学んで満足していていいのか。それから私は日本語や英語の勉強を本格的に始めました。

残念ながら当時大学で学んだコンピュータの知識は古くなっています(だからこそ学び続けてアップデートすることが重要です!)。一方、日本語や英語は一生の財産になり、いまも仕事で日々使っています。あのとき学びの必要性に気づかなければ、いまの立場にはいなかったと思います。

リーダーに求められる力の二つ目は、「イノベーション」です。人、企業、国すべてに言えることですが、成果を出すためには三つの条件があります。「イノベーション」「エフィシェンシー(効率性)」「コスト」です。

中国企業は、もともとこのうちの「コスト」に優位性がありました。そして日本や韓国から学んで「エフィシェンシー」も向上させてきました。しかし、「イノベーション」については、まだアメリカに及ばないところがあります。これからのリーダーは、とくにクリエイティブな発想を持ってみんなを引っ張っていくことが求められるでしょう。

いま中国で活躍するリーダーには、アメリカ留学を経験してきた人が少なくありません。バイドゥ創業者であるロビン・リー会長がそうです。ただ、テンセントのポニー・マー会長のように、広東省でゼロからイノベーティブな事業を立ち上げたリーダーもいます。そう考えると、物理的な場所は関係ない。イノベーションを追求することが大切なのです。

三つ目は「チームワーク」です。カリスマ型の強いリーダーは、会社の規模が小さく一つの分野だけやっていればよかった時代には活躍できたかもしれません。しかし、今は上流と下流を組み合わせて事業を展開することが求められます。シングルヒーローがカバーできる範囲は限られていますから、もはやチームワークは必須条件です。

中国はアメリカに似て大陸精神があり、調整型よりカリスマ型が好まれる傾向がありました。しかし、いっけんイーロン・マスク会長の強いリーダーシップに見えるテスラも、実は非常に優秀な経営幹部たちがいて会社を支えています。中国の企業も同様で、いまはチームワークを重視するリーダーがほとんどです。

学習能力、イノベーション、チームワーク。とくに中国のリーダーに必要な素養として三つの条件を挙げましたが、おそらくこれはどこの国でも求められるものです。私自身、この三つを磨き続けたいと考えています。(つづく)

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