20代向け新料金プランの企画で井伊社長は若手チームを抜擢。新料金プランはユーザーからの支持を得ます。ヒット企画誕生の裏には井伊社長が貫いた思いがありました。(2024年3月4日レター)

2020年12月、私は社長に就任してすぐに新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表しました。その記者会見で、私は若手社員と一緒にプレゼンテーションしました。それは、ahamoの設計に若手社員の意見を広く取り入れていたからです。

ahamo発表の1年以上前から「20代に訴求力のあるプラン」の検討を重ねていたのですが、私のような年寄りが頭の中で考えを巡らせたところで、20代が携帯に何を求めているのかはわかりません。そこで、若手社員を中心としたチームを編成して、新プランの設計を委ねました。

ターゲットと同世代のチームなら、ターゲットの心理が理解できるからです。それなら、私が語るよりも、作り手自身の思いを伝えたほうが思いを共感してもらえると考えたので、記者会見の場で若手社員の思いを直接語らせることにしたのです。

経営会議では、若手チームが企画したプランに対して難色を示す声もありました。ですが、ahamoの目的は、八方美人のスペックをつくることではなく、20代ユーザーを取り戻すことにあります。いろいろな人の意見を聞いてスペックの修正を図れば、エッジが立たなくなり、魅力が損なわれます。

Z世代のユーザーと渡り合えるのは、当社のZ世代です。「彼らに任せないでどうするんだ」と考えていました。ですから、既存プランの簡略化と明確化を図り、若いユーザーを獲得するという戦略を打ち出したのです。

経営陣が中途半端に口を出せば、中途半端なものができてしまうので、「全部任せよう」と決めました。全部任せるからこそ、社員は、ヒットするもしないも自分たち次第であると、当事者意識を強く持つことになります。

しかし、正直に言いますと、心配で眠れない日々が続きました(笑)。それでも、「100点ではないかもしれないが、0点もないだろう」と楽観的に思い込むようにしました。自分は会社に認められているという承認欲求は、強いモチベーションを生み出します。「やりなさい」と指示を出すより、「あなたの力が必要だから任せるよ」と伝えたほうが、人を動かすことができるからです。

「自由にやっていい」というのは、じつは、「自由に発言していい」と同義です。心理的安全性が低いと、こんなことを言えば叱られるかもしれないと周囲の顔色を伺うようになってしまうため、組織の硬直化を招きます。任せた以上は、彼らの発言を遮らない。よく「聞き上手」と言いますが、リーダーは「言わせ上手」でなければなりません。

若手社員の欲しがるスペックを実現しているため、ahamoは500万件を超えて好調を維持しています(2023年6月時点)。

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