シュシャンさんは、結果を過剰に意識することなく、プロセスを大切にしています。言葉にすればかんたんなことのように思えますが、できている人は少ないのではないでしょうか。全4回を通じ、プロセス重視の思考を学んでいただけたら幸いです。(2021年5月10日レター)

私は、来日してから30年間、弓道を続けています。

弓道には「正射必中(せいしゃひっちゅう)」という言葉があります。これは「正しく射られた矢は、必ず的に当たる」という意味です。私は、この教えに沿って、正しい姿勢でゴディバジャパンを動かしてきたところ、結果として7年で売上が3倍になりました。

弓道を始めたばかりの頃、「的に当たったか」について、誰も気にしていないことを知り、とても不思議でした。指導者は「当てなさい」とは決して言わず、正しい姿勢のみを教えます。つまり、「正射」を育てていくのです。

西洋のアーチェリーでは、「今日は7割当ててみよう」などと結果を求める指導法になりやすく、弓道の教えには衝撃を受けました。「的は狙ってこそ当たるもの」と考えていた私ですが、やがて、「正射必中」がビジネスにも通じると気づき、取り入れるようになったのです。

あなたは「売上・利益を上げたい」「自分のプロジェクトを成功させたい」と考えて仕事をしているでしょう。ここに、大きな落とし穴があります。売上や利益、成功という「的」に気をとられすぎると、正しい姿勢で矢を射ることへの意識が薄れ、結果として「的」を外してしまうのです。

どうすれば、正しく射ることができるのでしょうか。BtoC企業はもちろん、BtoB企業であっても、「お客様の満足」をすべての価値基準において考え、行動することです。たとえば、私たちは、ミッションを「お客様にハピネスを届ける」と定めています。どんな局面でもお客様の満足だけを意識するのです。正射を意識し継続できれば、的中率は、おのずと上がっていきます。

「正射」を意識すべきは、「自社の強み」です。ゴディバジャパンにおいては、「商品」「販売チャネル」「マーケティング」「接客」の4点です。それぞれでお客様の満足に集中し、結果として的に当たったのです。正しく矢を射続ければ、まぐれのヒットではなく、持続可能な無限の好循環が生まれるのです。

正しく矢を射るためのコツをお教えしましょう。弓道でもビジネスでも、物事というのはほとんど思い通りにいきません。弓道の範士(最高位の称号)とて、10射をすべて的中できるわけではありません。最高レベルの人でも、ほんの些細なことで雑念が生まれ、心が動いてしまい、動作が狂ってしまう。凡人である私たちが、10割を狙うことなど、そもそも無謀です。「思うようにいくはずがない」ことを前提にし、余計なプレッシャーを自分にかけず、正しい姿勢で矢を放つことだけに集中することが大切です。

命中率を上げるには、的をどう意識するか、も重要です。「的と向き合う」のではなく「的と一体になる」のがポイントです。向き合うということは、的との間に距離があるということ。それを意識のうえでゼロにしてしまえば、必然的に矢は命中します。では、的と一体化するためには何をすべきか。第2回では、その方法についてお話しします。(つづく)

次の講義を見る