社会から厳しい批判を受ける状況からの再建を目指した当時、西武ホールディングスの後藤会長が大事にしていたのが「おとこ気」です。「おとこ気」があればピンチになってもたじろがない――。その真意をお伝えします。(2024年1月8日レター)

2004年、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)副頭取を務めていた私は、西武グループの再建を担うことになりました。当時西武鉄道は、総会屋への利益供与と有価証券報告書の虚偽記載が発覚し、社会から批判の目にさらされていました。

「このままでは、多くの社員やその家族を抱える西武グループはつぶれてしまうかもしれない」という危機感を持ちました。かつての西武グループは、金融機関から見て、信用力の高い企業グループでした。ところが一連の事件によって上場廃止となり、急坂を転げ落ちるように信用力は悪化していたのです。

西武グループ経営改革委員会のメンバーだった私は、誰かがつっかえ棒になって支えなければ瓦解すると危機感を抱き、だとすれば自分がその誰かとして立つべきではないかと決断したのです。

経営危機下にある企業は、内部が混沌とした状態にあります。当時の西武グループも例外ではなく、役員までもモチベーションを下げていて、打ち手を見失っている難しい状況でした。ですが、難しいからといって放置したり、逃げ出したりするわけにはいきません。万一のことがあれば、景気にも悪いインパクトを与えるからです。

困難に直面しても逃げ出さないと心を決める源泉は、私の場合「おとこ気」です。おとこ気とは、困難な状況に直面しても、四の五の言わずにスパッと取りかかる勇気のことです。それは、男性も女性も関係ありません。

おとこ気を体現された方として、国連難民高等弁務官として長く活躍された緒方貞子さんが思い浮かびます。防弾チョッキにヘルメット姿で交戦地域に乗り込む姿は、小さな巨人と称されました。危険を冒し世界の紛争地へ赴く勇気は、まさにおとこ気でした。

おとこ気があれば、ピンチをチャンスに変えることもできます。私はピンチになるとむしろ、テンションが上がります。なぜなら、ピンチのときには、大胆な改革を実行できますからね。

困難にぶつかった時、怯んだり、怖くなったりするのは、余計な推測をするからです。慎重になればなるほど、できない理由が積み重なり、前に進むことができなくなります。だから、後先を考えないほうがいい。クヨクヨせず、おとこ気を持って事態を受け止める。そして、一度腹を決めたら、徹底的にやり抜く。どうにかして脱却してやろうともがいていれば、物事は良い方向に動くものです。

朝の来ない夜はありません。努力すれば、必ず太陽は上がってくるものです。

次の講義を見る